Sound revived

デジタルオーディオの口火を切った CD も、今ではすっかり旧世代メディアの扱いを受けています。現況デジタルオーディオはインターネット抜きでは考え難くなっていますが、アナログオーディオに目を向ければ今もレコードプレーヤーやカートリッジのレビューが引きもきりません、然しレコード再生の核心はフォノイコライザーに有るのです。

近年販売が開始されたフォノイコライザーの中でも、とりわけ耳目を集めるモデルがあります。 それらは従来からあった RIAA カーブ一択の定番物ではなく、レーベル毎に異なった数値を示す数種のイコライジングカーブを、それらに合わせて選ぶことが可能なイコライジングカーブ選択式モデルです。

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これまでも RIAA だけでは無く COLUMBIA や CCIR 等数種類のイコライジングカーブを選択出来るモデルも数社から出てはいましたが、その解説書には必ずと言っていいほど SP 盤かステレオレコード出現以前のモノーラル盤に対応する為と謳われていました。まあこれは例の古代脳が跳梁跋扈する暗黙の掟が蔓延する界隈へのエクスキューズ或いは、彼らからの攻撃を避ける為のカモフラージュの意味もあってのことでしょうが。

話が逸れました。

近年新製品として登場してきたモデルに備わるイコライジングカーブの選択機構には、ありとあらゆるカーブを再現可能なターンオーバーとロールオフを別々のスイッチで設定する方式か、決まった数種類のカーブを一つのスイッチで切り換える方式の2通りのタイプがあります。その操作性や使い勝手の快適さの見地からは、比較的新しいモノーラル盤やステレオ盤が中心なら後者の方を選択するのが断然良さそうです。

直近目にしたオーディオ専門誌上に於いてこの手のモデルの比較試聴企画の記事がありましたが、機種名は忘れたもののレビューを載せていたのは比較的若い方だったように記憶しています。その記事はは今迄のように RIAA 以外のイコライジングカーブを蚊帳の外に置くことをせず、設定可能なイコライジングカーブの有用性を試そうとする姿勢が見て取れる内容でした。文中イコライジングカーブの有用性を理解して行くくだりでは、周りの様子を伺いながら恐る恐るといったところにも却って好感が持てました。

これら一連の流れが途切れること無く継続するようにしっかり応援しないといけないななんて気持ちにさせられましたし、これからのことを考えると確かに良い方向に進んでいるようで嬉しく思います。

まだまだオーディオでは旧世代の RIAA カーブ厨も意気盛んなようです、まあ其れはよく有る風景の一つみたいなものでその動向に今更興味は有りませんが、問わず語りを少しばかり。

未だ生息している RIAA カーブ原理主義の大元を辿れば、そもそも「RIAA」が1956年ステレオ盤発売と同時に RIAA 規格のイコライジングカーブに統一すると宣言し、世界中のレーベルが追随したとの風聞が発祥のようです。強大な国力を誇った当時のアメリカではありますが、実際には何の法的権限も強制力も持たないレコード会社の業界団体に過ぎない「RIAA」にそのようなことが出来るはずがなかったのは少し考えれば分かることです。

それに加えて当時使用されていた市販の機器や環境を考えると再生は其れなりで、生音との聴き比べをしたところで全く掛け離れたものであったことは想像に難くありません。音の違いを正しく認識できなかったこと、これは当事者の能力の問題と云うより当時の再生環境全体の未熟さに問題があったと考えます。

とまあ RIAA 万能説の始まりの私的解説はこの辺りで。

 

世紀末も後数年というところで、突如『 RIAA を使用しているレーベルの方が圧倒的に少ない。』などとと云う”戯言”を放つ異端が現れます。その時既存のオーディオメーカーや出版社或はその界隈の対応は、躊躇なく聖域に手を突っ込んでくる異端には、徹底した黙殺で臨むしかしょうがなかったのでしょうね。

1998 年ステレオ盤を対象にした世界初のイコライジングカーブ可変型 LCR Phonoiqorizer Zanden Model 1000 がザンデンオーディオシステムから売り出されました。本機のアップデートとともに同社が順次公表してきたステレオ再生におけるイコライジングカーブの使用方法やデータに関して、 20 数年間ひたすら知らぬ存ぜぬを続けてきたオーディオ界の主要メディアや業界の現在がそのことを証明しています。

事実 Zanden Model 1000 発売以来 Model 1200・ Model1300 といった機種のレビューを読むと分かるようにオーディオ専門誌に掲載された記事ではイコライジングカーブの部分は全くと言って良いほど意図的に素通りされていましたから。それと云うのも、カーブの違いによる音の認識一つでライター生命を左右されかねない危険極まりない踏み絵のようなものですから。

RIAA カーブ神話に惑わされているとステレオ盤本来の音を知るチャンスを逃してしまいます。皆、愛聴盤を携えて RIAA カーブ伏魔殿から脱出しましょう。

変革の時は直ぐそこまで迫っています、 CD が口火を切ったデジタルオーディオが連れて来た圧倒的なノイズレスの世界、そこから始まった新しい時代のリアリティーの追求、その厳しい要求に呼応するように進歩したオーディオシステム。そうして現在の機器のサウンドクォリティーは飛躍的に進歩しました、その恩恵を一番大きく受けることになったのがアナログオーディオです。

もう一度言いますがアナログレコードの音を見直すきっかけを作ってくれたのはデジタルオーディオです。

アナログ時代には成しえなかった高低両端の再生音の明瞭化やノイズの低減、ステレオイメージに於ける定位・立体感・奥行き感の再現性等、過去の記憶に照らしても全く別物、途方もない進化・深化です。

LP レコードを駆逐したかに見えた CD も、長くオーディオを続けてきた耳には気付いてしまう不快なノイズ、 メーカーが謳う理論上では聞こえるはずのない不快な音を多くの人が指摘していました。そんなものに気づいてしまった人の耳には不思議とアナログレコードの音が心地好くも新鮮に聴こえたのです。

それに加えて操作が簡便で手間のかからない CD 再生に趣味としての物足りなさを(儀式的に、様式的に、ブラックボックス化されたものへの拒否感等々)感じていたオールドタイマーのアナログレコードへの回帰や、レコードを新鮮なメディアと認識する若い世代がそれに加わり始め、アナログオーディオは単なるリバイバルではなく「新しい事」として緩やかながら好ましい流れとなりつつあります。

デジタルオーディオの出現がアナログレコードを新次元へ引き上げました、それは嬉しい誤算と云う他なくメリット満載の僥倖でした。 やっとレコードと生音とを比べられるようになったのです。

旧弊を知らない新しい世代の参入が始まり、楽しいアナログレコードの世界が広がる未来がやって来そうな今日この頃です。 そしてくだんのフォノイコライザーの登場は音楽好きのレコード再生を間違いなく後押ししてくれるでしょう。

躊躇は要りません、これら古くて新しいフォノイコライザーを使い倒しましょう、レコードに刻まれた本当の音を聴く初めてのチャンスなのですから。

注 The Recording Industry Association of America® (RIAA)

*今は困難の時です、無理なお出かけは控えて健康に気をつけてお過ごしください。

こんな時音楽は良い友達です。

2020.04.19