衒奇それとも玄機 

昨年の8月に詳細をお知らせした ZANDEN Model 1200 Signature 、その実機が当店にやってきたのは秋も闌の10月下旬でした。

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ザンデンオーディオシステムが手掛ける  Model 1200 シリーズ最終モデルであり、且つまた集大成でもある  ZANDEN Model 1200 Signature 、 前作の ZANDEN Model 1200 Mk Ⅱ から内容の Up Date の項目は多岐に亘っていますが、フロントパネルに t/c ポジションがイコライジングカーブ切り替えスイッチに追加されたくらいで、プロプーションに変更はありません。

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一方リアパネルに設置されている端子の構成を見てみると、入力は2系統で何れも XLR バランス入力端子が装備され MC カートリッジからの出力をバランス受けするようになっています。一方出力側は新設された XLR バランスとRCA アンバランスの2種類の異なる端子が装備され、端子間に置かれたトグルスイッチで随時出力方法を切り替えられるようになっています。

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天板からの眺めで一番変化を感じる部分は、従来機では比較的シンプルな見た目だった上部スリットから覗く内部の様子です。一目でわかる先代機と比べて倍に増やされた真空管と共に回路基板の密集度です、本当にすごいことになっています。

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そんな筐体内部の様変わりに係る機能面を説明しようと思います、以前お知らせした内容と重複するところもありますが肝心な点を3つかいつまんで紹介します。

1点目は5つのイコライジングカーブに加えて、3つのタイムコンスタントを追加し、都合15個のイコライジングポジションを新設。

2点目はサブソニックフィルターの新設。

3点目は増幅回路のプッシュプル化。

モデルナンバーが更新され性能面では別物に進化を果たしましたが、操作に関しては ZANDN Model 1200 Mk Ⅱ と著しく変わるところはありません。

価格表には ZANDEN Model 1200 Mk Ⅲ と Signature の2機種が載っていますが、両機の差異はイコライジング回路構成がシングル動作かプッシュプル動作かの違いにあります。 Mk Ⅲ モデルがSignature モデルの発売後も併売されるのはシングル動作のMk Ⅱ には既に完成された音がある事、そしてその音を好まれる方々の存在です。今回のアップデートで追加されたタイムコンスタントとサブソニックフィルターの装備及び外観と操作部分は両モデル共通です。

一日千秋の思いで待ち焦がれた ZANDEN Model 1200 Signature を100日余りほぼ毎日聴いてきました、私のフォノイコライザー行脚はこれにて終焉したと言えるでしょう。生涯の伴侶に相応しいフォノイコライザーの極み、原器です。

 

これからその手前味噌のお話しをしようと思います。

この ZANDEN Model 1200 Signature は基本モデルの真空管シングル増幅からプッシュプル増幅へと変更しダイナミックレンジの増強が図られています、当然イコライジング回路は LCR 型ですが入力トランスをルンダール社製のアモルファスコアに変更、電源にもファインメットコアのトランスを採用するなど現在に於いては稀有、否、孤高のフォノイコライザーです。

 

今回行われたアップデートで目を引く増幅回路のプッシュプル化の理由は、シングル動作時に見られた中域の若干の力感不足の改善と、高域と低域の力感と帯域を伸張させた上でそれぞれのバランスを整え、全帯域の過不足のない力感及びダイナミックレンジの強化を図る為でした。その結果 pp 〜 ff まで音の高低に関わらずに明瞭に表現してくれますし、鋭利で直進性の高いパルシブな音の再現も余裕でこなし、兎角なおざりになりがちな、しかし重要な音の消え入る様も見事にこなしています。

聴き始めた途端いきなり驚かされました。製品版が納品されるまでの暫定措置としてプロトタイプを使用していたのですが、カタログモデルの実機に継なぎ直して直ぐに出てきた音を目の当たりにした時はたまげました。当に仮想現実の初体験でした、蜜の味です、もう止められません。この変化は麻薬的とでも云いましょうか、一度体験してしまうと実演を聴く以外の代替手段を思いつかなくなるほどです。

 

そして次はサブソニックフィルターの新設について。

このポジションスイッチを過去にお使いの経験をお持ちの方なら、再び使用することなんて考えもしないと思います、サブソニックフィルターはその使用をためらわせるほど酷く音質を阻害する不完全なデバイスでした。しかし時と場合によってはそう思いながらもスピーカーを守る為に已む無く使わざるをえない必要悪のようなものでしたから。

システムを保護する為に音質を阻害すると云う自縄自縛に陥った難物のデバイスでしたが、ザンデンオーディオシステムは発想を変えることで素晴らしいフィルターを生み出してしまいました。

プロトタイプではまだ実用化されていなかった音が良くなるサブソニックフィルターの登場、本当です、聴けばすぐにわかります。これまでならフィルターの影響で頼りなくぼやける低域が、嘘のように明瞭度が増すのですから。同時に音そのもののウェイトがぐっと下がってそれはもう見事なものです。

加えて視覚上の変化も見逃せないポイントです、これまでプレーバックを躊躇っていた歪んだレコードや打ち込みのレコードをかけてもウーハーの暴れが起きないのです、全くもって精神衛生上から観ても計り知れない進化です。

 

最後にイコライジングカーブに関わる変更点についてお話しします。

本機が採用している5種類のイコライジングカーブは従来機を踏襲しています。大きく変わったのは高域側の補正、所謂タイムコンスタントと言われる部分です。ザンデンオーディオシステムが採用していた従来のタイムコンスタントはノイマンタイプ1種類でした、そこに今回のアップデートではオルトフォンタイプとウェストレックスタイプを追加採用したことにあります。

この3つのタイムコンスタントの数値は詳かにはしませんが、数値を見たところその差は小さなもののように思えます、因みにノイマン・オルトフォン・ウェストレックスの順で低くなっています。

しかしながら音の差としてその現れ方は想像以上です、これまで私をイライラさせてきたイコライジングカーブは合っているにもかかわらずどこかピントの来ないレコードが、タイムコンスタントを合わせるとはこう云うことなのかと膝を打ちたくなる程、これ迄とは別物のリアリティを帯びた音を聴かせてくれるのです。

真のハイレゾリューションです。

イコライジングカーブと共にタイムコンスタントは UK DECCA・UK EMIを始めオルトフォンユーザーの多い欧州系レーベル 、合衆国レーベルや東芝 EMI ・JVC 等のウェストレックスユーザー、それ以外ドイッチェグラモフォンや東欧を中心としたノイマンユーザーが入り乱れ奇々怪界の複雑なマトリックスを形成しています。そんな救いようがないややこしい神経衰弱を解きほぐしてくれるのが新しい ZANDEN Model 1200 シリーズ です。

*近い将来、ZANDEN Model 120 シリーズの後継機にも同様のアップテートが実施されます。

 

このお話を読んでいただいている方、今眉に唾をつけていらっしゃかもしれませんね。この拙文ですから仕方ありませんが、ご自分の耳で確かめるまでは信じ難いと思います。何せこれほどのものは今迄どこにも無くて、ご来店いただくか本機のユーザーになって頂くほか術はありませんので。

オールドタイマー・旧世代オーディオマンの中にはステレオレコードのイコライジングカーブは RIAA 以外は如何なるものも頑なに認めない御仁もいらっしゃるようです、そのような方にも是非お聴きいただきたいなと思います。

当店は地図上では京都と大阪の中ほどの辺鄙な場所に位置しています、交通状況から二の足を踏まれている方も多いとは思いますが、実際には京都駅から凡そ半時間で店内の人になることが出来ます。

COVID-19 が沈静化し世情が安定した暁には、関西方面へお出向きの節は少々のお時間と当店まで足を伸ばすお手間をいただけると幸いです。

 

2021/02/02