レコード洗い雑感
オーディオのそれもアナログレコードのプレーバックにまつわる話題の中でも、レコードのクリーニング方法には種々様々な方式技術論が飛び交い、各人各様それぞれの優位性を競い合っているようです。近頃ではオーディオ専門誌でも新しいレコードクリーニングマシーンの登場につれ、レコードのクリーニングをテーマにした紙面を目にする機会が増えました。
当店開設時に導入して以来この方、レコードのメンテナンスに於いてこれ以上のものはないと断言出来る程の性能を発揮してくれているレコードクリーニングマシーンが Hannl Mera EL です。本機が発売された当初オーディオ評論家と呼ばれるオーディオ専門誌のライター諸氏の反応は、その誰もが高価ではあっても優れたデザインと高度な機能性を持った当製品を認めて真っ先に飛びつくだろうと予想していました。
しかし蓋を開けてみると見事な迄の肩すかし、当時のオーディオ専門誌に掲載された記事はおよそパッシブなもので、読者が知りたいと思っている製品の使い勝手や使用感等、ポテンシャルを知る手がかりとしてはまことに心もとない限りでした。その彼等が最近になってやおら動きだし今初めてその効果に気付いたかのように誌上で布令始めたところです。
発売時点で適切なレビューがなされてさえいれば、大勢のレコードリスナーにとっての宿願であるノイズレスのプレーバックへと、大きく踏み出すチャンスがもっと早くに得ることが出来ていたのに。本当に惜しいことをしたものです。
それでも昨今の彼等の活発なキャンペーン記事が功を奏し、今ではその存在の認知度も徐々に上がって来ているので良しとすることにしましょう。
愚痴はこの辺りにして本題へと移ります。
先ず”レコードを洗う” この言葉から受けるイメージに多少の違いはあるにせよ、一般的には盤面の目に見える埃や汚れを落とし再生不良の状態を少しでも改善する行為と捉えられているのではないでしょうか。そして盤面が清浄になれば自ずとチリチリパチパチが軽減され、更に上手く行った場合には暗騒音のようなノイズからの解放を期待することになります。ところが現状よくあるように全く汚れも傷も見えないのに、いっこうに消えない頑固なチリチリパチパチに悩まされ続ける事が珍しくありません。
その原因は現在広く行われている従来からある多様なレコードクリーニングの方法ではその洗浄能力が足りておらず、クリーニングしているつもりが実は表面を濯いでいるだけの効果しかなかったのです。
ここからは当店が行っている Hannl によるクリーニングについて書いてみます。
発売された当初の Hannl Mera EL にはまだローリングブラシの設定は無く、洗浄液散布用ノズルを兼ねた清浄用ブラシと吸引ノズルの2本のノズルが装備されていました。機能としては他のクリーニングマシーンと同じようなものでしたが、それでも専用の Hannl 500 洗浄液も含め他のレコードクリーニングマシーンに大きく水をあける能力を発揮していました。
それ迄使用していた超音波式やレイカや LAST といったケミカルでは、取り切ることが難しかったノイズの多くがいとも簡単に消え去り、結果快適なプレーバックを手に入れることが出来たのです。従来のレコードクリーニングマシーンからは大幅な改善を見る事になりましたが、それでも未だ取りきれないノイズが耳に付くことがありました。これまでのクリーニングマシーンから格段に向上した Hannl Mera EL の性能にはほぼ満足はしていましたが、あと少しの進歩が必要との思いはありました。
その後ようやくローリングブラシが製品化され当店の Hannl Mera EL にも装着、 Hannl Mera ELB にアップデートされてからは、未装着時に比べて更なる洗浄力の向上があり十分に満足出来るノイズの低減を達成しました。
と、ここまでは高価格で高性能が謳い文句のレコードクリーニングマシーンにとっては当たり前のことです。が、実はここからが Hannl 製品の本当のポテンシャルといいますか、隠された魅力についてのお話しになります。
Hannl 製品でクリーニングした後は汚れは見事に落とされ、新品時以上にも思える艶やかな盤面が現れます。これで付着物に由来するノイズの極限迄の低減は、所謂お約束です。
それ以外に何かあるのか、あろう事か明らかに音質の向上が認められるのです。このことは当店で行う Hannl Mera ELB Eco 24V でのクリーニングを体験した誰もが口にする感想です、他にラインナップされている Limited B Autom や Micro Express B Autom で行った場合も効果に違いはありません。これまでのレコードクリーニング用のケミカルや、超音波式洗浄機またキースモンクスでのクリーニングでは無かったことです。
Hannl 製品でクリーニングすることによって現れる音質の変化を文章で表現するのは難しいのですが、敢えて書かせていただくと次のようのことになります。
まずほんの少しボリュームが増したように感じ、 SN が改善され埋もれがちだった内声部が明瞭になり、それにより音楽のハーモニーのディテールをくっきりと浮かび上がらせます。しかし決して強調感を伴うようなものではありません、何もかもが極自然な風合いを保ったままです。音楽とリスナーの間には夾雑物の無い空間があるだけです、ただただ音楽を聴き続けることになります。
そのような結果をもたらす要因は何なのか、理由は多々あると思います。がそれらの事柄は私にとってさほど重要なことではありません、何故ならレコードリスナーの私にとってこの結果が全てなのですから。
レコードクリーニングを行うこと、誰しもこの作業の目的を盤面の清浄化とノイズキャンセルに置いていることは間違いないでしょう。私もその為に盤面の浄化クリーニングを行い、音質の向上などは全く期待も予想もしていませんでした。しかし今はレコードのクリーニングには音質の向上が第一義にあり、ノイズキャンセルについては副次的、むしろそうあってしかるべきものとして捉えるようになっています。
私個人のレコードライブラリーでは、廃棄候補になっていたものの中からかなりの数のレコードが Hannl Mera ELB Eco 24V のクリーニングでサルベージされました。埋もれていたマイ名盤の発掘は楽しく、レコードクリーニングは日課のように続いています。また当店の Hannl ユーザーは中古レコードショップの高額美麗盤に大枚をはたくことが無くなり、店先に置かれている投げ売り用の箱からの発掘を目的にショップ廻りをしていると楽しげに話して下さいます。
レコードリスナーの一人として思うことは、今やっとレコードが心底楽しめるようになったなということです。これは全てのオーディオコンポーネントのクォリティーアップにもよりますが、ザンデン製のフォノイコライザーとの出会いと、 Hannl 製品によるレコードクリーニングの賜物だと強く感じています。
Hannl Mera は発売当初から当店店頭での使用を通じ、耐久性に全く問題がないばかりか信頼するに十分な性能を発揮しておりその存在の重要性が弥増すばかりです。
当店が格別の自信を持ってお勧めする Hannl 製品は皆様が大切になさっているレコードプレーバックに於いて良き伴侶となり、かけがえの無いオーディオコンポーネントの中核になることは間違いありません。
*当店では Hannl 製品の販売と同時に Hannl Mera ELB Eco 24 ・500X によるレコードのクリーニングを承っております。
2015/1/17