Mutech RM-KANDA

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私どもオーディオアミーゴ京都の店頭試聴用ステレオカートリッジは、Benz Micro 社の製品が久しくその定席を暖めてまいりました。皆様も良く御存知のように Benz Micro 社の製品は総じて仕上げの質も高く、音もニュートラルでジャンルを問わないそつのない仕事は見事と云って差し支えないでしょう。同社の製品に対する私の品質性能に関しての個人的信頼度の高さは、現在もなんら変わるところはありません。

ところがです、ついさっき云ったばかりの舌の根も乾かないうちによく云うよと笑われそうですが、心変わりを告白しなければならない新しいカートリッジが堪らなく欲しくなった自分がここにいます。音楽の奥底を、どこ迄も見通せるようなザンデンオーディオ製フォノイコライザーのポテンシャルが、私の中にあった更なる欲求を呼び覚ましたのです。つまり未だ見ぬレコードプレーバックの本当の深淵を今度こそ覗き見たいと云う思いがそうさせるのです。それは募るばかりで一向に納まることはなく、よしそれならと意を決してその思いを叶えてくれそうな新たな高性能カートリッジを探すことにいたしました。

レコードリスナー各人に於けるアナログレコードのプレーバックの有り様はそれぞれで、そのキャリアの如何にかかわらず個人的嗜好が如実に現れる分野です。その多様性が趣味としてのオーディオの奥行きの深さを生み出しているとの思いから、これまで当店は特にご要望のない限りお客様へのカートリッジの提案は行っていませんでした。

時にリファレンスカートリッジを敢えて提示しなかったことが裏目に出て、オーディオアミーゴ京都が提供したいと考える録音時を彷彿とさせる演奏の再現がお客様の元では十全になされているとは云えない状況も経験しました。左様これ迄経験した事例を踏まえ前例や自説に固執することなく、今後はお客様の更なる上質なミュージックライフ獲得の一助となるように、当店が厳選したリファレンスカートリッジを提案提供させていただくことが必要であると思い至りました。

今後当店が新たに店頭試聴及び販売に供するカートリッジは、これ以上のものは無いと云う自負を持ってお届けしているザンデンオーディオ製品のクォリティーに則したものでなければ意味がありません。世評をはじめオーディオ誌に掲載されたレビューがいくら良いものであっても、自らが峻別しベストと確信したものをお届けすることが肝要だと考えます。機種選定にあたっては必要な項目を何一つ欠けること無く満たしていることを絶対の条件とし、それ以外の実性能が伴わないスノビッシュな部分を以て所有欲を誘うような製品は自ずと対象から外すことになりますし、当然これ迄に試聴した機種で性能的に基準を満たしてはいるものであっても、音楽を聴いて心動かされる Something が無いと判断したものも除外の対象としました。

そうして臨んだ新しいカートリッジ選別のキーポイントは、従来型の磁性体コアの高出力型 MC カートリッジが聴かせるパワフルでマッシブな音だけではなく、リボンカートリッジを含む MC 非磁性体コアタイプ所謂空芯型、それも出力インピーダンスの低いものが聴かせてくれる音のイメージを重視しました。その理由は極限とも云える程の歪み感の少なさを基本にした、全く自然な音色の再現を優先することにあります。私は磁性体・非磁性体と云ったコアの材質ならびに構成素材等に特別なこだわりはありません、ブランドや使用されている素材・方式を問わず出てくる音を最優先しました。

私が過去使用した MC カートリッジの系譜を辿り並べて見ると、非磁性体コアを採用した機種が磁性体コアを採用した機種の数を上回っていました。同じ出力インピーダンスを持った磁性体のコアを持つものに比べて概ね出力電圧が小さく使い辛いにも関わらずです。

一時期特に好んで使用していたリボンカートリッジに至っては、位相歪みのありようを大きく左右する出力インピーダンスが 2Ω と全く申し分ないのですが、片や S/N に影響する最高出力を示す数値は 0.04mv しかなくなんとも頼りないものでした。しかし歪みを全く感じさせない直線性の高いその音は何者にも変え難い、未来に繋がる希望の音でした。

欲深いレコードリスナーである私から見ても、現時点でカートリッジから下流に繋がる機器類に限ってはその S/N は申し分の無い領域迄到達したと申せましょう。しかしカートリッジを含めたシステム全体として考えると微少音量時の S/N の確保は簡単なことではなく、グルーブの奥に隠されている筈の音楽のエッセンスの要であるハーモニーの全てを露に出来る領域にまで達しているものは多くはありません。未だ私達が気付いていない実力の持ち主がいることを信じて、現在最良のカートリッジを見つけ出すことを命題に掲げました。

先にも述べたように出力インピーダンスが低い非磁性体コアを持つ MC カートリッジの音質はまことに魅力的なのですが、総じて出力電圧が低く S/N の点で不利になるのは否めません。原理的に磁気歪みが出ないとされているカートリッジの理想像となり得る励磁型カートリッジは、現在どこを探してもカタログモデルとして存在するものがありません。それらを勘案すれば当然ながら永久磁石を使ったものの中から探索することになります。

通常カートリッジは出力電圧が大きくなればその S/N は向上します、従って今回候補に挙げたモデルの中からもその数値の大きな製品を選ぶことになります。しかし時として高い出力電圧と引き換えに個性的な音色が顔を覗かせるものもあるので油断は禁物、慎重を期して臨んだことは申すまでもありません。

現時点で高評価を得ている低インピーダンス高出力 MC カートリッジの勢力図は、オルトフォンタイプの磁性体コアを持った多くの製品がそのジャンルをほぼ席巻していると云えます。しかし探してもみるものです「天は自らを助くるものを助く」ではありませんが、その様な状況下まさかの理想的とも思える高出力 MC カートリッジが製品化されていました。

Transfiguration と云うアメリカのブランドが販売しているカートリッジで、 CES に於いてデモンストレーションに使用したこともあるザンデンオーディオシステムの山田さんも認める高音質の MC カートリッジでした。調べてみるとこの製品は日本の Mutech 社が OEM したもので、強力リング型ネオジムマグネットヨークレス方式の、 Mutech 社が初めて開発成功させた MC タイプの新しいカートリッジでした。

今回私の求める条件に合致したカートリッジを絞り込む為に、可能性ありと見当をつけた機種を幾つか実聴した中では、私の求めるもの全てを満たすものには出会えませんでした。そこで以前から可能性ありと睨んでいた Mutech  社のカートリッジに白羽の矢を立て、日本における Mutech 社の販売代理店である株式会社カジハララボにお願いして RM-KANDA と LM-H の2機種を貸し出していただきました。

最初からステージを異にする音が聴こえていましたが、さらに1週間に渉り入念な試聴を繰り返し検討を重ねた結果2機種ともが、安定的にそれも思っていた以上のパフォーマンスを発揮してくれました。どちらを採ろうか大いに迷いましたが、最終的に新しい音を素直に分かり易く表現してくれる RM-KANDA を当店推奨及び店頭デモンストレーション用のカートリッジとすることに決定しました。

このカートリッジを選んだ複数ある理由の中の一番のポイントは、その数値が裏付ける性能(内部インピーダンス 2Ω という小ささが生み出す位相特性の良さと、出力電圧に示された 0.5mV と云う数値から来る S/N の高さ)に支えられた際立つ微弱音の再現性にあります。リボンカートリッジに匹敵するような自然な音と、音の消え行き方が今迄のものの次元を遥かに越えた新しさを伴って再現されるのです。これも行き過ぎになるかならないかぎりぎりのところにありますが、今迄他の音に埋もれて見えにくかったものが立体的に見えるようになります。そうしたことで演奏者の意図が掴み易くなり、その官能をより深くより濃く享受することが出来るようになります。

そしてそれらを可能にする基本性能の高さの証として、エッジを強調すること無く音の鮮明度を高く再現する能力、にじむことの無い音色等全てがリンクしてプレーバックが揺るぎないものになっています。

今回の試聴に於いて店頭試聴用には選びませんでしたが、もう一方の LM-H についても音楽を再現するクォリティーは RM-KANDA とも共通していて見劣りする部分はいっさいありませんでした。けれどその再生音は RM-KANDA と少なからず傾向を異にしています。RM-KANDA がストレートで全てを露にする音とすると、 LM-H は含みを持たせた音と云うか、敢えて聴きに行く者にだけその世界を見せてくれる大人の音といったところでしょうか。オーディオを意識しないレコードファンにはこちらの方が好感触かもしれません。

正直なところどちらを採るのか面白くも悩ましい選択でした。

kanda

Mutech RM-KANDA はザンデンオーディオ製フォノイコライザーとの相乗効果により目覚ましいパフォーマンスを発揮します。ザンデンオーディオ製品が常時試聴が可能なオーディオアミーゴ京都で、世界のハイエンドオーディオの最先端を走る機器類が紡ぎ出す素晴らしい世界を覗きにいらっしゃいませんか。

 

2015/9/24