DIATONE DS-4NB70 就役
昨年、「驚破!一大事」のところでもお話しましたが、オーディオ機器のサウンドの良し悪しではなく音楽を聴かせることをとても大切にしてきた相棒、当店のデモンストレーションの要を担ってきた QAUD ESL 2905 が不調をきたして早14ヶ月。輸入元に修理依頼のお伺いを立ててみるも気のない返事が帰って来るばかり、ある意味それに背中を押された勢いでこの難儀の事態のサバイバルを果たす為、手近な処で使えそうな機種を幾つか試して見るものの、薄々は予想していた通りの結果に陰々滅々の惨状。とりあえず急場凌ぎを任せるパートタイマーにも出会えずに悶々とした日々を重ね将に「砂の女」の心境でした。
そんな心挫けた折も折、オーディオから手を引いていた筈の DIATONE がブランド発足70周年記念事業の一環としてスピーカーを出すらしい。10年ものブランクが有りながらかなり凄いらしい、いや本当に凄いぞと云う話が何度となく耳に入って来ていました。満足に音楽を聴けない期間が続きダウナー状態だった物臭男には、超財閥の直系企業 MITUBISHI ELECTRIC 様が 我が ZANDEN MODEL8120 を開発用リファレンスアンプとしてお買い上げいただいていたこと、ZANDEN に何度か持ち込み行われた試作段階のデモンストレーションを聴いた山田さんから感触の良い話を聞けたこと等、事前情報から耳の干上がりかけた私の期待はいやがうえにも高まるばかりでした。
この DIATONE DS-4NB70 と命名されたスピーカー、実はドライバーの出自を辿ればダイヤトーンブランドのカーオーディオに源流を見ることになります。ここからは私の想像が入るのですが、カーオーディオ用途に生み出されたこの原石を元に、70年に渉り蓄積・継承された伝統の技術と新しい考え方を縦横に駆使し、使用するデバイス・構造そして製造業にとって優先順位の高いコストにもあまり制約を加えないで製造工程から一切の妥協を排除し磨き上げた、NHK 用モニターの経験が在ってこその特別なプロジェクトの賜物の様に思います。
くどいようですが、大メーカーなのにしかも民生用なのに「ようこんなやり方が通ったな」とあきれる様なプロダクトの(大変失礼な物言い、申し訳有りません)希有なスピーカーなのです。
実際に自分の耳で聴いた印象は新製品のそれも大作の発表試聴会のこと故、デモンストレーションで用意されていたソフトの傾向がこのスピーカーの資質を把握し易く考えられたものでもあり、再生限界の高さと質感・ハイスピードから来る情報量の多さが際だち、グラデーションの表現力が今一つ隠れ気味だったのが少しばかり残念だったこと。言い換えればオーディオライクな、所謂音派好みの「聴かせる為の音」にウェートが置かれ、このスピーカーが本来持っているハイスピードさが醸し出すグラデーションの表現力、つまりは生っぽさが分かり難かったことでしょうか。
それでもその内に秘められたマイクロフォンに入る直前の音を抉り出す鋭い牙の存在を嗅ぎ取れたインテックス東京の OTOTEN でのデモンストレーションや、去る9月23・24日の2日間にかけての当店試聴会の準備の間にでじっくり聴けたことで天啓を得たと云うか心を鷲掴みされました。その時点で密かに次期 旗艦 として迎え入れる心づもりは出来ていました。いざ発売という時になってもう片方の足に履いている草鞋のスケジュールに加え、自身の身体的不都合等不測の事態により已む無く先延ばししていたので待ちわび感半端なかったです、いやもう本当に。
しかしその時は必ずやって来るものです、2017年12月6日、遂に DIATONE DS-4NB70 が三菱電機の自社配送便でやって来ました。
決して借りものではありません!乏しい財政にもめげず勢いで買っちゃいましたよ。 本当”欲しかった!
今回試聴室に招き入れたこのメーク、旧来のブックシェルフスピーカーと呼び習わされていたものと比べて少し大振りです。性能目標を達成する為に少しサイズアップはしていますが、ブックシェルスピーカーと呼ぶに支障は全くありません。なので当然スピーカースタンドが無ければスタンダードな運用が成立しません。が、故あって今回の発注ではダイアトーンが純正指定しているティグロン製スピーカースタンドは外させてもらっています。
その理由をちょっとお話。
現在の一般のオーディオルームに於けるブックシェルフスピーカーの使用形態から見て、ブックシェルフスピーカーの音はスピーカースタンド込みで成立しているのは間違いありません。でもこれまで立ち会ったこの DS-4NB70 の試聴会で聴こえた音を顧みてみると、巷間販売されている従来の方式のスピーカースタンドではこのスピーカーのポテンシャルが生かしきれない、と。
ここまで長所ばかりのお話しで眉唾ものの駄文だと思われた方もいらっしゃると思います、確かに高性能が目立つ DS-4NB70 ですがその性能の高さ故の使用上の留意点を一つお話ししたいと思います。
スピーカーそれもこのDS-4NB70 からはかなり大きなエネルギーが発生します。その発生したエネルギーの処理いかんが音を上手く音楽に変えられるかどうかの分かれ目になります。つまり単なる置き台としてのスピーカースタンドではスピーカーから発生するエネルギーを巧くコントロール出来ず、スピーカー自体を不要振動による外乱の直中に置くことになり、サウンドの自滅を誘うことも起こりうるのです。如何に巧くエネルギーを処理出来るかに焦点を当てたセットアップを目指さなくてないけません。さしあたりどのようなスピーカースタンドを選択するのかが第一の関門になります。
当店では密やかに(でもありませんが)フロアスタンディングのスピーカーを大地の縛りから解放するデバイス『音羽』を販売しています。詳細は省きますがドライバー・エンクロージャー共にその動きを阻害する要因が排除されたスピーカーから流れ出るのは音ではなく音楽そのものです。それと同じ効果をブックシェルフスピーカーでも再現出来る、当店開発のオリジナルスピーカースタンドが手元にあるのです。
Hanging Structure Bed『音羽』の開発時に遡りますが、同時進行でスピーカースタンドも構想を練っていました。新型スピーカースタンドは『音羽』の完成から少し時間を置いてプロトタイプが出来上がりました。
当面はこのプロトタイプでブレークインとデモンストレーションを進行しますが、載せる主体が確定したことで急ぎ専用製品版の設計を進めます、サイズは純正仕様に準じます。
とりあえず音を出す事を急いだセッティングでも DS-4NB70 から聴こえるサウンドは、既存のダイナミックラジエータースピーカーシステムの能力をブレークスルーしていることが分かります。現在販売されている遥か上位の価格帯の製品をも超越した音色再現・時間軸整合・ハイスピード等を具現し、スペースファクターも抜群でスタジオモニターにも応用が利きそうな程の性能は、オーディオ的にも全く申し分の無い現在最先端のスピーカーに相違有りません。
ブレークインを始めて4日が過ぎたところです、未だその行き着く先は分かりませんが時間の経過と共にステージイメージが鮮明になり、被写界深度が深くなり俄然音楽の表情が豊かになって来ています、ほぼ丸3日以上聴いていますが もうこの時点でQAUD ESL 2905の退役が決まりです、今後それが覆ることは無いでしょう。
New Cast の就役です。
2017/12/9