JULIAN BREAM に寄せて

もう遥か昔になってしまいましたが私が未だ高校生だった頃のことです。私達の廻りには常にロックやフォークソングが流れていました、あと TV ではグループサウンドが全盛を誇っていました。ロックではビートルズやストーンズ等の第一世代から新たにバニラファッジ等へヴィーなサウンドのバンドの胎動が始まっていました。またその一方 PPM やジョーンバエズ等のフォークソングの勢いも続いていて、それぞれが好みの音楽に夢中で誰しもがミュジシャンを夢見ているような良い時代でした。

教科書は学校のロッカーに置いたまま弁当とギターだけを携えて登校し、昼休みや放課後は気の合うもの同士我流のギターをかき鳴らしさながらバックステージの様相を呈していました。しかし皆自己流の下手糞揃い、おまけにそれに歌まで歌うものですから収拾がつく訳が無い。思い返しても楽しすぎる日々でした。

あの素晴らしい日々から幾星霜、気が付けば半世紀の時が流れ身分は社会人となり肩にかかる重さが若さ故の記憶も沈殿させてしまっています。

何の気なしに部屋の隅を見る。

埃をかぶりただの風景になってしまっていたギターに手を伸ばし弦を弾いてみる。

音はするものの錆びた上に伸びた弦は弛い音しかくれなくなっているしうろ覚えのコードも指が動かず音にならない。

ギターピースを出して思い出の曲を弾いてみる、やっぱりあかんね。

そしてレコードラックからブリームを1枚引っ張り出してターンテーブルにセットする。

ボサノヴァの巨匠バーデンパウエルに「なんか良う分からんけど、ごっつええわー、すごいでー!」と云わしめたマエストロ ”ジュリアンブリーム” 。当時その名前はおろか存在すらも知らない小僧の自分がいました。

あの頃は無知で狭い世界に生きていた脊髄反射の子供であり、音楽的訓練の未熟者故刺激の少ないクラシックは興味の対象外にあり、ましてやクラシックの中にもギターミュージックがあることさえも知らないアホでしたから。

レコードをかけます、途端にスピーカーからは何とも歌に溢れ人間味豊かでスケールのでかい音楽が聴こえて来ます、他に巨匠・名手は存在しますがブリームの世界はブリームだけにしか有りません。

幻の日本公演は今から20年程前だったでしょうか、開催が決まっていたにも拘らず残念なことに急病により公演は中止されました。それ以来演奏会が開かれることはなく、世界は彼の生演奏を聴く機会を閉じられたままです。

しかし彼は我々に大きな贈り物をくれています、

それはそれは彼がとても沢山残してくれた録音の数々、彼の演奏、否彼を聴きたければレコードの中から何時でも目の前にあらわれてくれるのですから。

2017/12/10