オーディオラック雑感

国内のオーディオ関連のウェブサイトや出版物の誌面には、編集部の選んだ読者や記事に関連するライターのオーディオルームが紹介されています。大抵の場合そこにはショーの会場のごとく燦然と輝くオーディオコンポーネントが整然と並べられていて、当然それらのベッドとして専用のオーディオラックに収められています。けれどその中にはごく稀にではあるものの機器の使いこなしに全く無頓着なのか関心が無いのか、ことのほか設置環境に敏感な高性能機材を飾り棚や家具の上に無造作に置いただけだったり、はたまた収納家具然としたラックにただ詰め込まれた状態を目の当たりにした時には、その大胆さと鷹揚さに言葉を失ってしまいます。

オーディオラックがセッティングのクォリティーの全てを決めてしまうとはまで申しませんが、セッティングの要としてオーディオラックを含めたバランスで考えることが肝心です。ところが上記のようにことここに至ってもそんなことは眼中に無い人の存在、ベテランのオーディオフリークスの中でさえも上記の二点に頓着しない人がいる現実があります。その様な状況を甘受されている要因を考えてみると、大凡オーディオ機器のクォリティーだけがその音を決めるポイントであり、セッティングや電源廻りの影響はたかが知れている等、現況の把握よりも過去から引きずり続けている思い込みが頭の中に居座っているからかもしれません。

オーディオでの音楽再生の成否に於いて有名メーカー製で高性能と謳われているオーディオコンポーネントを揃えることは一つの条件に過ぎず、そのことだけで水準以上の音が手に入る等とは夢夢考えてはなりません。

オーディオ機器の設置に関して最近ではさすがにコンポーネント同士を直に重ね置きするような人は絶滅したと思います、それでもまだオーディオラックとは名ばかりの単なる棚の域を出ていない製品を使用している人達が趨勢でしょう。

オーディオコンポーネントの設置と機器類の収納とは全く別次元の問題のはずなのですが、多数の機器を保有することになってしまった人達には、収容台数を優先したオーディオラックを用いるのはむしろ限られたスペースへの収納が必須事項である点から考えれば当然の帰結とさえ見えてきます。これは偏に機器類に愛情を注ぎすぎる人達が陥る特有の事象かもしれません。

巷間これまでにも散々機器類の適切な設置方法の重要性が説かれ認識も高くなては来ていますが、ベテランであればある程それ等の意見には耳を傾けること無く、所有している機器の諸元にのみ関心を寄せ、それらの機器の収納の利便性と見映えそれと操作性を優先して適当な場所に置くだけ載せるだけの設置を続けています。その様な行為はオーディオコンポーネント本来の性能を発揮させられなくなるだけでなく、反対に性能劣化の主たる要因の一つであるにもかかわらずです。

またそんな使用状況の直中にいる機器優先派の習性を見越したように、様々な性能向上を謳い文句にした簡便なアクセサリーが販売されています、大方の商品は派生的な変化を見せるものはあっても、効能書き通りに性能向上をもたらすものは少ないようですが。

一方欧米のオーディオファンにとってオーディオラックはリスニングルームと同様にサウンドのクォリティーを左右する重要なファクターとの認識のもと、メインのオーディオコンポーネントと同列のイクゥイップメントとして扱われています。新たに市場に投入されるオーディオラックは素材の物性に頼るだけではなく、機構的にも工夫を凝らしてオーディオコンポーネントとしての機能を高めた製品へとシフトしています。それらの製品は機能性の追求だけに留まらず、同時にインテリアとしても成立するだけのデザインを纏っています。リアルタイムでオーディオに向き合っている方々には、コンポーネント自体の振動や電磁的環境が音質に与える影響の大きさは周知のこととなり、それらを考慮したセッティング方法を採ることが当然のこととして受け止められています。

世界各地で開催されているオーディオショーの画像を眺めると、オーディオメーカーを代表する製品群がが斬新なアイデアとデザインのオーディオラックにセットされた状態で展示されています。それらのオーディオラックの中には一度使ってみたいと思わせる製品もあるのですが、現地価格もそこそこのプライスタグが付けられていて、日本に輸入した場合の価格を想像するとやはりと云いますか購入に踏み切るには結構な勇気を要することは確かです。

少し前までは我が国のオーディオシーンにも最先端のオーディオラックが紹介されることもありました。それが昨今の世相に見られるように廉価なものへのシフトが過ぎて、販売数が少ない故価格も高額にならざるを得ない、つまるところ売り辛くなって商業的に立ち行かなくなりいつの間にかフェードアウトしています。今となっては僅かに残ったものと旧来からの製品の中から選択する以外に無く、セッティングの要になる高機能なオーディオラックを必要と考えるものにとっては厳しい状況が続いています。

cessaro

技術系オーディオ誌の読者紹介の頁でよく見かける機械室のような環境で音楽を聴くのが苦手な私は、出来るだけ簡潔なインテリアと最小限のオーディオコンポーネントで構成されたリスニングルームを理想としています、ですがまだ理想通りの部屋作りは達成出来ていません。今はその道中でオーディオラックは現在手に入れることが出来るもので妥協を図りつつ、少しでも思い描く環境に近づける方法を模索している最中です。そうこうしながら最小限のオーディオコンポーネントのセッティングする為の理想のオーディオラックを夢想していましたが、最近になってこれならいけるかもと思えるちょっとしたアイデアが湧いてきました。これから先まだ時間はかかりますがその実現に向けての作業を進めています、成功か失敗かはさておきこれから暫くの間は構想と試作の繰り返しです、実のところこの時期が一番楽しいのかもしれません。

2013/12/01