Phono Equalizer 考

先日ザンデンのフォノイコライザー  Model 1200 Mk Ⅱ についてのお問い合わせをいただきました。

電話でのやり取りでしたが、その中で「ザンデンのフォノイコライザーはどんな音がするのですか。」と云うご質問をいただきましたので、言葉での説明には限りがあることをご了承いただいた上で次のようなお話をさせていただきました。

端的に云えば至極普通でライブ感のある生っぽいとでも言い換えられる音で、他社のモデルのように独自の個性を主張して非凡さを強調したような音質ではありません。それらが持つある種の快感を誘うような音質をして媒体による高評価の対象になり『憧れのコンポーネント』等のタイトルを冠するモデルに比べると、サングラスを外し裸眼になった時に見えるような、あるがままを映し出すニュートラルさが際立っちます。録音時を彷彿とさせる正確な再現性を持つが故に、比較する機種にもよりますが全ての帯域に於いて突出感や強調感は皆無で、聴き比べの場では物足らなささえ感じてしまうかもしれません。

爾来当店がこの地でショップを開設して早5年が過ぎ、その間ザンデンオーディオの音を多くの方に聴いていただきましたが、その評価の分かれ具合の振れ幅の大きさにレコードリスニングの奥深さを垣間見た思いがしました。その原因をここで検証するのも一興、少し遊んでみようと思います。(これからお話しすることはフォノイコライザー以外のシステムはフィックスされていることを前提にしています。)

ザンデンオーディオのフィロソフィーを最も端的に現している、Model 1200 Mk3 は比較的高価な価格帯に位置していると思います。したがって海外製品の所謂ハイエンドオーディオと呼ばれる製品群と比較されることになりますが、比べるものが見当たらない程到達点の高さは桁違いです。

前言にもありますがそれらの海外モデルが我が国のマーケットで得ている人気の秘密は、一言で云ってしまえばその際立った音質・音色の個性・エキゾティシズムにあります。

オーディオ誌の紙面を飾る海外製品はモデル毎に製作者の思想を映し、他のライバルメーカー達のモデルとはひと味もふた味も違ったオーディオ的快感とでも云える鮮烈なバランスで音を現します。フォノイコライザーも然り、所謂ブランドの音を醸します。

コンサートホールでの実演時の音はと云えば、生演奏は鮮明というイメージとは裏腹の概ね楽器の音は混ざり合いオーディオ用語にある音場・音像なども曖昧で、各楽器の分離や距離感など視覚が無いと判別も困難な状態です。総じてオーディオシステムを通して聴くよりも頼りなく感じることになるでしょうか。演奏会場で聴こえてくるのは音楽として楽器から発せられた音そものであり、特定の部分だけを抜き出して強調したような音など聴こえないのは言わずもがなです。

翻ってそれら人気モデルのフォノイコライザーを使用してレコードで音楽を聴く時には、ある特定の楽器にフォーカスしているように聴こえたり、ハーモニーとして録音されたものがそれぞれの楽器の音を明確に描き分けたりと、実演には無い凡そオーディオシステムでないと聴くことが出来ない鮮やかなオーディオサウンドとして出現します。そしてその音そのものを気に入った人達は該当するモデルやメーカーに強いシンパシーを感じ、熱烈に支持し人気が人気を呼びオーディオフェアではそのメーカーのデモンストレーションに多数の人々が殺到するのです。

ここまでお読みいただいた皆さんの中に、この様なことが起きることに怪訝な思いをお持ちになった方は居られませんか。レコードに入っている音がフォノイコライザーによって違った聴こえ方をすることにです。それらが聴かせる音の内、いったいどれが録音時と相似の本物のレコードの音なのでしょう。

オーディオを音の聴き比べや自分好みの音を見つける遊びだから「レコードは好みの音を創る為のソースに過ぎない」と割り切ってしまえばこれはこれで何等問題はありません。このようなマニアックな単に音を聴き比べる遊びなどではなく、オーディオは音楽を聴く行為であることに立ち戻ると、同じレコードの音が違って聴こえることは致命的な欠陥を抱えていることになります。

日頃からオーディオの音に耳が慣れてしまって電気的な再生音に異和を感じることが無くなり、実音よりもオーディオの音に快感を覚えるようになった時、フォノイコライザーはエフェクターと同義語になり、出てくる音がモデル毎に違っていることに何の疑問も持たなくなるのかもしれません。

本来フォノイコライザーはレコードのマスタースタンパー制作に於いて作業上不可避である信号の変調をを、マスターテープと同様の信号に復調させる信号復元機なのです。誤解を恐れずに云ってしまえばフォノイコライザーは何よりも信号再現の正確さが重要であり、出てくる音に個性を持たせることなど不要なのです。

現時点でそれらの問題点を全てに於いてクリアしているフォノイコライザーは、ザンデンオーディオ製以外は思い浮かびません、このような現状では他に選択の余地などあろう筈も無いのです。

これからレコードのプレーバックに於いて録音時の再現に対する正確さを求めるのであれば、尚更フォノイコライザーから出てくる音に敏感になる必要があり、慎重に選ぶ必要があると思うのですが。

2014/02/25