DIATONE DS-4NB70 の相棒は?

ブックシェルフタイプのスピーカーはスピーカースタンドを換える、ただそれだけのことでサウンドの印象が大きく変わります。スピーカースタンドの良否、それはスピーカーの性能を削ぐことなく、持てる能力を如何に発現させられるかにかかっています。

ここからスピーカースタンドの重要性についてお話ししようと思います。ただし如何に優秀なスピーカースタンドに載せようとも、ただそれに組み合わせるだけでルームチューニングや適切なセッティングが行われなければ、そのスピーカーの持っている実力は発揮されないと云う事を念頭に置いてお読み下さい。

ブックシェルフタイプのスピーカーから実体感のあるサウンドを得ようとするならば、スピーカーの動作を妨げない良く出来たスピーカースタンドと組み合わせるか、そうでなければスピーカースタンドの能力をスピーカーに見合った状態に変えられるデバイスの助けを借りることが必須です。

しかしスピーカー本体に比べると、スピーカースタンドはあくまでも付属品の位置づけであり、購入時の関心は専らリスニングポイントとの位置関係にあります。肝心のスピーカースタンドによるサウンドの変化については、例えあったとしても微々たるもので、それすら付随的に起こる変化でしかないと考えられている節が有ります。

スピーカーとスピーカースタンドは、度々オーディオ専門誌で取り上げられているアンプとスピーカーのマッチングテストのような記事も無く、実際に組み合わせてみるまでどのような結果になるのか想像すらしづらい状況です。それに店頭で比較試聴も現実的に難しい中、一筋縄では行かない迷路でもあります。

まあそのような状況の中スピーカースタンド選びにあたっては、パワーアンプから受け取った情報を余さずサウンドに出来るように、スピーカーのサポート出来るものを選別するしかありません。つまりサウンドをスポイルする振動や外乱からスピーカーを守ること、音声信号以外の音は出させない「何も引かず、何も足さない」状態を作り出せるスピーカースタンドを何としてでも手に入れる覚悟で臨むことに尽きます。

現在市販されている主要メーカーのスピーカースタンドのありようを見ると、高さはスピーカーのポジションを決める外せないポイントですから、当然そのバリエーションに抜かりは有りません。ただビジネスとしてはコンベンショナルなスピーカーとのマッチングを優先事項にしていますから、搭載部の機構形状はどれもが似通ったものになっていて、グッドサウンドを求める為に必要な振動に対する適応力については製品間ごとの差異が分かり難く、ベストマッチを探し当てるのは骨が折れる作業になるのも頷けます。

これもスピーカーメーカーがスピーカースタンド込みの製品開発を行うとか、サードパーティー製品もスピーカーメーカー監修の元で開発を進める、そしてその製品が社外オプションとして販売されれば、迷うことも少しは減るのでしょうけれど。

現在一般的なスピーカーとスピーカースタンドのセッティングは、スピーカーを直にスピーカースタンドに載せて、それをインシュレーターやボードで支持する方法です。全てのエレメントをリジッドにセットすることによってスピーカーから出た振動を速やかに床へ逃がし、かつ素材による振動モードの違いを利用して全体を制震し、より良いサウンドを引き出すことを狙って。

ただしこのような方法を採った場合、まあ屁理屈めいた物言いになりますが、固い者同士が接触しているわけですからその逆もまた然り。で、振動は床からスピーカースタンドを通してエンクロージャーに伝わり、結果的にサウンドに影響してしまうのではないか、と。それにスピーカーとスピーカースタンドがリジッドに繋がっていると、スピーカースタンドの素材の固有音がサウンドに加味されて・・・云云かんぬん。

閑話休題

ここから DS-4NB70 とスピーカースタンドのお話しをしましょう。

DS-4NB70 で音楽を聴くと、先ず遅延する音が全く無いことが分かります。その影響で小音量時も中高域は明瞭で、マスキングされ易い低域も同様に刻まれた音階が明確に聴き取れ、これらが奏効しサウンドはシームレス、これぞ HiFi です。これはこのスピーカーが素で持っている極上の特質です。

昨年当店で開催した試聴会では、ダイアトーンが純正指定している TIGLON MGT-DS-70-60 と云う製品名のスピーカースタンドが組み合わされていました。その組み合わせが聴かせるサウンドは DS-4NB70 の特質を巧く体現していて、『高速・等質』そして『広帯域』とオーディオとしてはかなりいけてるものでしたが、何方かと言えば私には高域が強調気味に思えました。そのせいでヴォーカルが少しスタティックに聴こえ、シンガーのストレートなパッショネートの表現が多少翳り気味、とは言えあと少し人間の声域を押し出すだけでベストの状態に持って行ける勝算はありました。

このサウンドに磨きをかけ更にリアリティを増せば、これはもう至上のスピーカーになることは間違い有りません。

その様な事情もあり、ブレークインには当面ダイアトーン純正指定の TIGLON MGT-70-60 を使用せずに、先ずは当店がフロアースタンディングタイプのスピーカー用に販売している『音羽』から派生した、オリジナルスピーカースタンドの試作品を組み合わせを試してみることにしました。

このオリジナルのスピーカースタンドが狙うところは、スピーカーから出た音響エネルギー以外の不要振動を吸収し、且つ外部からスピーカーに向かう振動をも遮断することなので、それが巧く働くかを検証すること。スピーカーをサスペンドさせて、不要振動や外乱等の悪影響を受けずにその振る舞いを自由にすれば、スピーカーはポテンシャルを存分に発揮するようになるのかを見極めることでした。

ブレークインに使用したオリジナルスピーカースタンド試作第一号は、これ迄に数種類のブックシェルフスピーカーと組み合わせましたが、いずれの場合もその効果は確認済みで一様に好感触を得ています。ただ今回組み合わせる DS-4NB70 には搭載部の寸法が合わなかったので新たに作り直すことになり、同時に支持機構部分と支持位置、それに加えて設置時の安定性のためボトムプレートの大きさも含めて全面的な設計変更を行いました。サイズを DS-4NB70 に合わせて大きくなることに伴い、緩衝材の容量とダンプ材の充填量も増加させました。

しかしちょっとやりすぎてしまったようです。

その様子を搔い摘んでお話しします、 DS-4NB70 を試作品に載せると静寂感がぐっと上がったので、そのまま聴き込んでみると、それはただ静かさが増したのではなくプレゼンスの部分が削がれていて、倍音を失った硬ささえ感じさせるものになっていました。デッド過ぎて空間感も希薄で平板なサウンドであり、ソースのあら探しに使えそうな程情感が消え去った、とても音楽を楽しめるような状態では無くなっていました。全域にわたって響きが薄く、ドライバーユニット単体が鳴っているようでした。

この一連の経過から、 DS-4NB70 は素のままで響きのコントロールが突き詰められている希有なスピーカーだと思い知らされました、それ故にセッティングはデリケートな扱いが不可欠である事を肝に銘じる必要が有ります。

試聴会や試作スピーカースタンドでのブレークインの結果を踏まえて、アクセサリーメーカー KRYNA 製の汎用スピーカースタンドを用意しました。極一般的なセッティングで試聴を再開しましたが、この組み合わせにするとすぐに試聴会当時のそのままのサウンドが蘇りました。

この状態のまま次にこのコンビネーションを一つのスピーカーシステムと見立てて、そこに『音羽』を加えることでどのような変化が現れるか試しました。

ただしここでの DS-4NB70 と KRYNA 製スピーカースタンドのセットアップは直置きや金属系素材を使わず、高性能な緩衝材で知られる内外ゴム株式会社製品の中でも新しく一層の衝撃吸収性を発揮するハネナイトゲルを介して行いました。

そのスピーカースタンドのメーカーこそ違え、純正組み合わせに準じたシステムの構成を基にして、更にそのスピーカースタンドに装着したスパイクを介して『音羽』に載せます。

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結果はこれまでの『音羽』の使用実績から予想はしていたものの、その経験値に照らしても上々の着地を見せました。

具体的には中音域が一層の充実を見せることにより、 KRYNA 製スピーカースタンド単体使用時にあった高域の強調感も無くなり、サウンドバランスが整って音楽の重心がぐっと下がります。そうしたことでこのスピーカーの優れた特質である『高速・等質』『広帯域』はそのままに、更にプレゼンスが増してサウンドがよりビビッドなものに進化しました。

元々全てエレメントが高い次元でバランスしている DS-4NB70 が、設計時本来の性能を発揮出来るようになっただけなのでしょうけれど。この実体感を増したサウンドを得たことで、演奏者の意図がよりストレートに伝わり、増々音楽に入り込めるようになる等、このスピーカーの美味しさを余すところなく味わえる様になりました。

目出度し、賞でたし、愛でたし、です。

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自分一人右往左往やっていますが、今のところ DIATONE DS-4NB70 は KRYNA 製スピーカースタンドと『音羽』のトリオで「ほんま ええ感じ」です。

2018/02/18