Technics SP10 そして R

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Technics  SP10 シリーズは 1 st ・ Mk Ⅱ ・ Mk Ⅲ と三代に亘り、その発売時のスペックは常にトップにあり、あらゆる民生品のターンテーブルの先端を行く時代の雄でした。CD の台頭を受けレコードは時代遅れと騒ぐ業界の流れでその系譜に幕は引かれましたが、日本のオーディオを象徴する第一級の工業製品であったことは疑う余地もありません。

それから幾星霜、巷ではアナログオーディオのリバイバルが話題に上り、それに呼応するように新たなファンも増えていると云われる今、機をうかがっていたかのようにパナソニックから復活を遂げたブランド Technics の高性能ターンテーブル SP10 R が発売されます。Technics SP10 シリーズのとりを務めた SP10 Mk Ⅲ から 30 年余りのブランクを経ての蘇り、とても楽しみです。

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Technics SP10 1st は、凡そ半世紀も前に生産された民生用、それも極めて高い正確性を求められる機械であるにも拘らず、手入れは必須ですが現在もそつなくその仕事をこなしていること、実に驚愕に値することであります。

私はその時々で SP10 の全モデルを使用して来ました。その中から私が今も選び使い続けているのが 20 極 60 スロットの DC モーターを使用した SP10 1st です。一番高性能だった Mk Ⅲ を選ばずクォーツロックも装備されていない SP10 1st を選んだのは何故なのか。その質問には「1番良い音だったから」若しくは「一番リアリティーのある音がしたから」と答えるしかありません。どうしてそう思ったのか、それはこの後の話の中でおいおい明らかになると思います。

最初の SP10 1st の購入の経緯としては、オーディオを始めたばかり基礎知識も無いただの音楽好きがオーディオ専門誌を読み、そこの評価に踊らされた挙げ句の愚行と云えます。将に猫に小判そのものでした。口では音がどうのと受け売りをしていたものの、実際にはどれが良い音かも判然としないまま、本当に恥ずかしい宝の持ち腐れ状態でしたから。

そして自分の評価軸を持てないまま漫然とレコードを聴いていた私は、性能諸元がより優秀になった Mk Ⅱ が発売されると当然のように買い替えます。だってカタログスペックは明らかに向上しているし、スピードも3つに増えシンセながらもクォーツロックされているのですから、無知のオーディオ心をくすぐらない訳がありません。また意匠もスマートさが加味されてより高級感が増したので、スキルもランクアップしたような錯覚を与えてくれましたもの。

何ともいやはや、その後生活環境が変わってしまったことで当時所有していたオーディオシステム全てを売却、呆気なくオーディオから身を引くことになります。そして雌伏すること十有余年、またまた環境が変化し長らく遠ざかっていた音楽を身近に置きたくなったのを機会にオーディオ再開。それが今に繋がります。

「音楽をレコードで聴きたい」そんな思いでオーディを再開したのですが、当時はもう CD が発売されてから随分と時間が経っていてアナログなんて時代遅れの空気ムンムン、今更新品で買える国産の高性能ダイレクトドライブターンテーブルなど日本橋を探してもありませんでした。そんな時に雑誌の広告で見つけたのが SP10 Mk Ⅲ の中古品、それは SL1000 Mk Ⅲ 仕様のものでしたが、品物が送られて来た時はそりゃーもう嬉しかったことを覚えています。

装置もほぼ揃い単純にレコードが聴けることが嬉しくて、出てくる音の質に注意を向けることすら無く暫くは平和な日々を過ごせていました。しかしやがてそれが日常になると、何故かしらレコードの音が以前聴いていたものとは違うことが気になり始めていました。丁度其の頃 SP10 Mk Ⅲ の機嫌が良くない日が多くなり、ナショナルショップを通じて松下電器に修理を依頼しましたが、一ヶ月後当時のサービス部門の手に負えずに修理不能で返って来ました。

それが契機になり、他にもっと良いレコードプレーヤーは無いものかと、ダイレクトドライブ・ベルトドライブ・アイドラードライブと節操なく入れ替えを繰り返す、宛らスクランブルテストの如き毎日。

そうこうしているうちに少しは耳が出来たのでしょう、ドライブ機構の違いが音に現れること、モーターの違いが個性を生むことを肌で感じ取れるようになりました。

その時知った駆動方式による特性の違いを当時の記憶の糸を辿って纏めてみます。

ベルトドライブはカートリッジに対してモーターを離せる利点が有るので、機械的電磁的雑音から逃れることで SN は優れている、しかしベルトが介在することで回転に個性が出て他のシステムとの相性に左右され易くなること。

アイドラードライブは、モーターのトルクをそのままプラッターへ伝えるので、モーターの精度が良ければ正確な回転を望むことが出来る。ただしモーターに精度の問題ではあるけれど、プーリーとアイドラーに伝わった振動がそのままプラッターに乗るのでステレオ再生では不利なこと。致命的なことは、アイドラーとプラッターの擦過音から逃れられないこと。

そしてダイレクトドライブはプラッターの駆動に介在するものが無い為、モーターの性能がそのままターンテーブルの性能として反映される。同時に騒音と振動の発生源であるモーターの性能は機械的な SN に直接影響する。そしてモーター駆動用アンプの位置やモーターがカートリッジに対して電磁的な影響を及ぼすと考えられる。しかし市販されたものは概ね静かで正確な回転を維持し、しかも持続性が高い。

今考えると何とも当たり前すぎることですが、当時得た自分なりの結論は正確な音楽再生を目指すのであれば兎に角正確な回転が必須であること、何より静かであること等が、特にステレオレコードの再生では重要で、以上の事を概ね体現しているダイレクトドライブターンテーブルを選択することになりました。

そしてその数あるダイレクトドライブターンテーブルの中から SP10 1st をどうして使い続けるのか、これからその理由をお話しします。

ダイレクトドライブターンテーブルを使おうと決めて、オーバーホールが可能で入手も簡単なレコードプレーヤーを何種類か集めて聴き比べを始めました。ただ SP10 Mk Ⅲ については、カタログスペックは相当高い値が示されていましたが、以前使用していた時に聴こえていた無味乾燥気味の音の記憶によって、自動的に候補から外れていました。

この聴き比べで DENON DP-80 ・ Technics SP10 1st ・Technics SP10 Mk Ⅱ の3台に絞り込み、その3台の中でも耳馴染みがある Technics の2機種を併用することになりました。

これら2台の聴き比べをするなかで、いつの間にか  SP10 1st だけを聴くようになり、Mk Ⅱ はオブジェになっていました。理由は単純で、何時何を聴いても SP10 1st が生々しさに溢れていること。こればかりはカートリッジを取り替えても、トーンアームを取り替えても変ることはありませんでした。

この2台のターンテーブルはモーター本体の構造が違い、その為にモーター駆動の方法も全く異なった方法が採られていました。手の込んだ職人技極まる 20 極 60 スロットサーボモーター本体と、簡潔な制御アンプの  SP10 1st 。片やクォーツロック 20 極 15 スロット超低速電子モーターを、大規模な制御アンプの SP10 MK Ⅱ 、この違いが2台の回転の質を異なるものとし音の差を生んでいるのではないかと。

加えて電子回路のことなど全く分からない私がこじつけた結論は、機械的に手の込んだ出来の良いモーターを必要最低限のサーボで廻し、回路基板もコンパクトに収まる  SP10 1st は必然的にカートリッジが受ける電磁的雑音が少なく済むこと。片や Mk Ⅱ は 1st より大幅にコストカットされたであろうモーターを強力なサーボで制御することで性能向上を果たし、その為に配置されたターンテーブル全体を覆う大規模な回路基板がより多くの電磁的雑音を発していること、クォーツロックも各回転に合わせた固定周波数のクリスタルを使用せず、 PLL シンセサイザーで処理している事も一因かと。

以上の事からその後使用するターンテーブルを  SP10 1st に決めました。

私が選んだ SP10 1st ではありますが、従来通りの使用方法では私の求めるレベルには到底及びません。モーターを使用している以上微小振動は避けられないことは当然、その問題をクリアしないでは先に進む事は叶いません。

従来通りの方法で  SP10 1st を聴いている人に、 このターンテーブルは最高だといくら喧伝しても、賛同を得るのは難しいでしょう。幾ら高性能な製品でも一般市販品である以上、やはり民生用の工業製品としての限界があります。それを補いより高みを目指す為に必要なのは、ターンテーブルの有害振動を排除することです。

そこで当店が開発したのがダイレクトドライブターンテーブル用ダブルアイソレーションターンテーブルベース石清水です。

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石清水にセットされた  SP10 1st で再生されたレコードを聴いていると、全く自然で誇張を感じる事も無くゆったりと音楽に没頭出来ます、これこそ私の望んでいたオーディオでした。

以上が私が今も  SP10 1st を続けている理由です。

「新生 Technics SP10 R」が、その始祖の  SP10 1st の音を継承しているのか、はたまたそれを凌駕しているのか期待しながら,聴ける日を心待ちにしています。

2018/4/4