Direct Drive Turntable 考

常日頃性能やデザインにこれと云った不満も無く当たり前のように使っていたレコードプレーヤー、ある時を境に何故か違ったものを新調するぞと云った欲求に駆られる瞬間があります。その切っ掛けはメーカーお仕着せのレディーメードのものでは物足らなくなってしまった、とか、ターンテーブルやトーンアーム等のユニットに気になるものを見つけた、とか、また既視感の無い組み合わせに興味がわいてしまったとか理由は様々あると思います。そんな時先ず決めておかなくてはならないのがレコードプレーヤーシステムのエンジンであるフォノモーターです。

何故ならフォノモーターのドライブ方式が、レコードプレーヤーの性質を大きく左右し基本性能を決定づけるからです。プラッターの駆動方式は時代と共に流行り廃りがありギアドライブ・アイドラードライブ・ストリングドライブ・ベルトドライブ・ダイレクトドライブへと変遷してきました。そして LP から CD へと時代は流れ、過去にオーディオが大ブームだった時期があったのかさえ疑わしい昨今、山ほどあった国内の大手オーディオブランドはその衰退とシンクロして退場して行きました。

潤沢に開発費が使える大手電気メーカーがオーディオから手を引いてしまった現在、レコードプレーヤーの主流は構造上少量生産が可能で資本投下が少なくて済むベルトドライブシステムにシフトしています。

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そんな状況でもレコードリスナーの間では、未だにターンテーブル(ここからフォノモーター=ターンテーブルとします)のドライブ方式についての議論が絶えませんし、その議論は堂々巡りを繰り返すばかりで決着を見ることは無さそうです。私も過去ダイレクトドライブは音が悪いと云う風潮に流されていた時期があり、消去法ながらベルトドライブプレーヤーが良いのではないかと考えたこともありました。

しかしここ数年の間にフォノイコライザーやカートリッジの性能が目覚ましい進化を遂げ、ベルトドライブターンテーブルシステムではどうしても乗り越えられない壁があることに気付いてしまったのです。時間の芸術である音楽をレコードで正しく再現しようと思えば、レコードプレーヤーには正確で静粛な回転が求められます。現在入手可能で実用に足る全てのドライブ方式のレコードプレーヤーに触れて来た経験に鑑みて選べば、モーターとプラッター間に全く夾雑物が存在せず静謐で高精度の回転維持が可能なダイレクトドライブターンテーブルの一択になります。

とは言うものの未だ多くのファンを魅了し続けている過去業務用用途での実績が高かったアイドラードライブ機は、多少の S/N の悪さに目をつぶり好事家がそれを承知で使用するには何等問題はないと考えます。しかし高性能業務用アイドラードライブ機は定期的なメンテナンスの実施が必要条件であり、その水準を維持した上での話です。近年のイージーオペレーションのオーディオ機器を使い慣れたオーディオファンにとって、使用に当ってリスニング以外にかかる時間も対価もコンシューマー向けとは異次元に踏み込む覚悟が必要になります。また良質の実働個体の残存数の少なさから実用に堪える製品の入手に難があり、入手後もメンテナンスのスキルいかんによって性能が左右され易いので、メインキャストとして迎え入れる難しさは否めません。

1970年代後半の我が国でレコードプレーヤーの本流と思われていた D・D(ここからダイレクトドライブを D ・D と表示します)ターンテーブルシステムの退潮は、 CD 発売後それまで幅広い年齢層を捕えていたホビーとしてのオーディオの凋落が引き金になりました。

経緯としては当時D・D モーター開発を牽引していた大手メーカーが、オーディオビジネスを見限り相次いで撤退したこと。元々が小さいオーディオと云う限られたマーケットを対象にしている割に開発製造に多額の資金が必要な高性能 D・D モーターの開発は無駄であり、現在のオーディオを取り巻く状況から見た市場性の低さは致命的です。

そのような事情から、オーディオ全盛期には我が国の殆どのメーカーが競って世に送り出した D・D ターンテーブルシステムも、近年では海外生産のDJユースのものを除き全て生産を終えています。まだ沢山残っていると思われる使用中のものも、アイドラードライブ機と同様過去のものとして扱われています。

そのようなことから性能についても現在では顧みられる機会さえなくなりつつあるようですが、いえいえどうして当時各メーカーが技術の粋を結集し生み出した製品は今でも十二分に通用する実力を秘めています。その証左になるかは分かりませんが、最近の西欧のハイエンドオーディオシーンに於いて、その数はまだ少ないものの D・D モーターを使ったターンテーブルシステムが登場して来ています。

日本で開花した D・D ターンテーブルシステムは、高性能とメンテナンスフリーを買われてターンテーブルの回転方式の中で圧倒的優勢を勝ち取りました。D・D ターンテーブルシステム黎明期からオーディオを始めた私もその時代を享受し、各種のターンテーブルシステムを取っ替え引っ替えしながら楽しくオーディオライフを過ごしていました。一方そんな時勢にもメインストリームに背を向けるように  D・Dシステムの音に不満を持ち、アイドラードライブやベルトドライブのターンテーブルシステムを使い続けている一部のレコードリスナーの存在がありました。

ここに来て再びメインシステムに D・D システムを採用することにした私も、当時の製品に100%の満足している訳では有りませんでした。過去に経験した様々な経緯もあってこれからの D・D ターンテーブルの使い方の参考にしようと、今更ながら D・D ターンテーブルシステムに否定的だった彼等の不満がどこにあったのかを突き止める為、現在個人的に入手可能な各種の D・D モーターの聴き比べをしました。

そうこうして漸く突き止めたその原因は、主に回転をコントロールするドライブサーキットからのノイズや、カタログ数値を持ち上げる為に無理矢理こさえた、非現実的な大トルクを発生させる為に使われた強力すぎるマグネットに行き着いたのです。

そのことを確認する為、数値的な性能があまり高くないシンプルな回路構成だったり、それほど強力なマグネットが使われていない機種(どちらと云えば下位機種)を選び試してみるとその考えが大きく外れてはいない、と云うよりやはりそのことが大きく拘っていることが更にはっきりとしました。究極のドライブシステムとして全盛を誇った D・D システムは、各社の競争の中、回転の正確性と静粛性やハイトルク化等、カタログ数値のより一層の高性能化を進める為にサーボを極限迄強化しようと電子回路を巨大化させたり、その必要性を無理矢理こじつけた強大なトルク値を稼ぐ極端に強力な磁気回路を搭載しました。カタログ上で説明出来る素人目に分かり易い高性能さを強調する為に数値に走った事が、レコードリスナー達のプレーバックに於ける欲求不満を募らせる要因になっていたのです。

そこで先祖帰りではありませんがモーターそのものが持っている回転の質に目を向けることにしました。電気的なサーボへの依存度を下げ機械的な精度を高めた高品質・高精度のモーターの使用こそが、音質的に満足出来る D・D モーターを使ったターンテーブルシステムを作る条件になると考えました。先にもお話したように最近では欧米から新たに D・D モーターを採用したターンテーブルシステムが出て来ていますし、中にはコンピューターを回転制御に使用した新しい製品も出ています。また従来からある製品でも機種によっては未だメンテナンスが可能なものもありその実力は現用機としても十分です。

以上のような点から現時点でも回転精度や静粛性それにハンドリングの良さに関しては D・D ターンテーブルシステムには十分以上の可能性があり、これから LP レコードで質の高いプレーバックを試みる場合残存する個体数の多さも考え合わせて、 D・D ターンテーブルシステムに再登場願うのが一番現実味がある方法と考えています。

D・D モーターがターンテーブルシステムの趨勢から遠のいて行った経緯は先にも述べた様に、オーディオブームの消滅と共にメーカーの開発製造が止まったことに加えて、 D・D ターンテーブルシステムの音を認めなかった一部の声の大きなレコードリスナー(オーディオエリート?)のメディアでの存在が大きく影響しているのかも知れません。

これからレコードプレーヤーを選ぶ際には必ずしも高価格=高性能と云う図式が成り立たないこと、高価なもの程しっかりと個性を纏っていること等を念頭に置き、価格をはじめとして好事家やメディアから発せられるマニアックなレビューに惑わされず、夫々気になった機種を実際にお試しになりご自分の耳で判断されるのが一番良い方法です。色々な情報から今迄 D・D モーターを使ったターンテーブルシステムは駄目だと思われていた方も、心を平らにして聴き直してみるとなかなか佳いじゃないかと思われるかも。

2014/06/13