Monophonic Phono Equalizer
先年『続 SP(78)レコード』と云うタイトルで SP レコードのプレーバックについてお話しをさせていただいた中で、Zanden Model 1100 の後継機になるであろうモノーラルレコード用フォノイコライザーの開発に触れたことががありました。それから随分と時間が経ちましたが今回はその続きと云うかその後の経過をお話ししたいと思います。
今だにオーディオ界ではステレオレコードのプレーバックに使用するイコライジングカーブは RIAA カーブ一辺倒。で、その不文律に異を唱えること自体業界に歯向かうことであり、しかもあろうことかそのパンドラの箱を開けるなどとは狂気の沙汰であり、未だ何人も沈して黙し続ける禁断のダークマターとして君臨しています。業界全体の思惑が生み出してしまった幻のモンスターにそっと小さく立ち向かっている私です、が、実生活に於いて聴いているのはステレオ時代のレコードだけなんてことはありません。ことステレオレコードに限っては他のイコライジングカーブの存在そのものを頑に拒絶する RIAA カーブ信奉者のレコードリスナー達さえも、いろんなイコライジングカーブを使ってプレーバックするのを当然のことと考えている、 SP レコードに始まるモノーラルレコードを愛着を持って常用しています。そして特に最近のオーディオイクィップメントを使用し、 SP レコードを HiFi 再生することを最大の楽しみとしています。
そんなオーディオ生活を送っている私は、ことあるごとにそのラインナップの中にステレオレコード用のフォノイコライザーしか持たない現在のザンデンオーディオに対して、ハイエンドオーディオのメーカーとしてレコードレーベルの数だけイコライジングカーブが必要なモノーラルレコード用のフォノイコライザーを加える必然を、イコライジングカーブのマッチングの重要性を最も熟知している主宰に向けて直訴して来ました。その粘りと云うか執念が功を奏したのか、新製品の開発とバックオーダーに追われる多忙な製作業務の中を縫って、漸く待ちに待ったプロトタイプが後少しで完成の運びとなりました。
ここでそのプロトタイプの概要を少しお話ししましょう、先ず外観のデザインとコントロールに加え基本の回路構成は一連のザンデンオーディオ製品そのもので、ザンデンユーザーにとっては極自然に付合えるようになっています。またフォノイコライザーにとっての核とも云えるイコライジングサーキットは、当然のことながらザンデンオーディオの真骨頂であるLCR方式を採用し、 NF 型や CR 型といった簡易方式ではなし得ない時間軸の確かな整合による正しいプレーバックを実現します。
この新しいモノーラルレコード用フォノイコライザーは、機械吹き込みから始まったモノーラルレコード時代の正確なイコライジングカーブを再現し、モノーラルレコードを正確にプレーバックする為に無くてはならないものとして計画されました。その新たな試みを確実なものにする為の機能として、ターンオーバーとロールオフをそれぞれを分けて設定し、その二つを組み合わせてイコライジングカーブを合成する方法をとりました。操作はそれぞれ2つのつまみを適宜切り替えながら最適のイコライジングカーブが設定出来るようになっています。そしてその2つのつまみは数値の再現が不確実になる連続可変型とはせずに固定した数値を切り替える方式をとりました、その為切り替え時にも設定値の変動は起こらず正確なイコライジングカーブの再現を約束するものとなります。
このモノーラルレコード用フォノイコライザーの製作に当り、再度各レーベルのイコライジングカーブを確認するため過去ものにされた複数の文献を調べ直しましたが、そこに記されたイコライジングカーブを見て行くとそれぞれが微妙に重なり合い全てを網羅しようにも際限がありません。そこで基幹となるレーベルの試聴から基準になりそうなイコライジングカーブを絞り込むことにより、実用上必要と思われるターンオーバー18種とロールオフ10種にまとめることが出来ました。これで現在巷に在る当時のレーベルの大方をカバー出来るのではないかと考えています。
8月の中旬には当店のシステムに組み入れて試聴と検証を始めることが出来そうです、今からその時が待ち遠しく日に日に期待が膨らみます。手前味噌になりますがこれ迄の経緯から見てかなりの好感触を予想していますが、それより少し先の9月に入れば試聴をお望みの皆様のご期待に沿うことが叶うかと考えているところです、さて如何相成りますか。
2014/7/29