私の偏愛盤
No.1
Deutsche Grammophon 2531 088
JOHANN SEBASTIAN BACH
Toccata BWV911・Parttita BWV826・Englische Suite No.2 BWV807
Martha Argerich, pf
最初の一枚は1979年2月に録音された、マルタ・アルゲリッチ最後のピアノ独奏盤です。国内盤はポリドールから発売されていました。バッハの演奏は大体四角四面と云うか、教条的で重苦しい音楽的喜びに無縁な演奏ばかりと思い込んでいたのですが、このレコードを聴いて初めてバッハの音楽の魅力の一端に触れ尽きることのないバッハの世界の門をくぐる事になりました。此処でのマルタの演奏は瑞々しく自由で伸びやかな旋律に溢れ、知らず知らずのうちに音楽に溶かされてしまいそうな程の至福を味わいました。今ではバッハの鍵盤作品を聴くときはチェンバロが殆どですが,このレコードだけは特別でかなりの頻度で聴いています。
このレコードも音楽としてはこれ以上無い程満足していたのですが,こと音質に関してはどうしても腑に落ちない物でした。マルタの実演で聴かせるあの輝かしくビビッドな音色が影を潜め、固く乾いてうわずった音しか聴こえて来ないのです。当時のプリメインアンプのフォノポジションで聴いていましたので、所謂イコライジングカーブは RIAA でした。この音色の傾向はアンプを取り替えても変わりなく、レコードの音はこんな物と諦めるしかありませんでした。後年このレコードが CD 化された時には僅かながら音色も近い物になっていましたが,逆極性に接続を変える事でより本物らしく聴こえる事が分かりました。
しかしそれでもレコードで聴きたくてフォノイコライザーを取っ替え引っ替えしていた時に、 Zanden Audio というメーカーからイコライジングカーブが変えられる機種が出ている事を知り、直感的にこれしか無いとようやっとの思いで手に入れました。それでも当時はまだ RIAA・DECCA・COLUMBIA の3種類のカーブしか無く極性切り替えもなく,このドイツグラモフォン製のレコードにしっくり来るカーブは見つかりませんでした。ただこの時点で CD と同様に極性を逆にした方が音楽の座りが良い事は確認出来ていました。
そして待望の Zanden Model 1200 Mk Ⅱ の登場により、 TELDEC・EMI の2つのイコライジングカーブと極性切り替えが加えられ万全の体制が整いました。そしてこの TELDEC カーブと逆極性によりこのレコードはかつて聴いた、実演時のピアノの再現をやっと果たしたのです。そして現在も当然の事としてこれで何の不満も無くマルタのバッハを堪能しています。
皆さんもこのレコードをカーブは RIAA のままで結構ですから,一度ポラリティーを逆にして聴いてみて下さい、感動を新たにされる事請け合いです。
2013/09/10