感動的再生の源は?

 

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昭和の頃までは一般の家庭でも結構大掛かりなオーディオ装置を使って音楽を聴いていたように記憶していますが,昨今世の中はデジタル家電が普及し大画面テレビを除いては家電製品のコンパクト化が急速に進み、家庭内で空間を通して音楽を聴くツールとしては PC や  i PODをプレーヤーに使うスタイリッシュでコンパクトなものが多くを占めるようになったのではないかと思います。それらを選ぶ決め手はデザインや価格を主体に考えられていて、諸元に関してはほどほどで良しとしているのではないでしょうか。

ところがオーディオを趣味として生きている人種にかぎってはことアンプやプレーヤーの話になると、とたんにそれらを単なる家庭用電化製品と同様の工業製品とは違うものとして受けとってしまうようです。一旦オーディオと云うタイトルが付くと、デザインや性能諸元はもとより音色や音質あるいは録音時の雰囲気の再現性など、数値に表す事が難しい官能的能力を求めてしまいます

おそらくその基になっているのがオーディオ誌上に展開されるレビューではないかと推測されます。オーディオに於ける音楽の聴こえ方の表現方法には基準とされるものが存在しないこともあり、人によりある程度言葉の用法の違いは仕方ないのですが、それらのレビューでは人の感情を揺り動かす要素の大本が、機器の性能に由来しているかのような表現が多用されています。概ね物理的な基準によって性能を判断される工業製品の中で、人の感情に訴えかける能力がクローズアップされ、評価の対象がデザインや性能諸元以外の言い換えればあたかも無機質から有機体へと不可能な転換を果たしたかの様な案配です。電子機器自体が人体に直接触れず視覚にも訴えずに人の感情を動かすなどと云うのは考えてみるとかなり特殊なことであり、無機質な部品の集合体のオーディオコンポーネントにそんな性能が備わっているのかは自明のことなのですが。

この趣味に手を染めている人からは今頃なにをと咎められそうですが、オーディオコンポーネントの仕事は音源からの情報を正しく出力することにあります。その結果良質の音源の持つ素晴らしい楽曲と質の良い演奏で人の心に訴えかける音楽を提供することが可能になります。良い音楽は良いオーディオコンポーネントがあれば得られる等の文言が記事に載せられることにより、ライター本人にはその気が無くても読者はこの部分で根本的な思い違いをさせられることになります。本来良質のオーディオコンポーネントとは、受け取った信号をそのまま増幅し出力出来るものであり、源信号への足し引きは一切不要不可を条件としているにも拘らずです。

左様オーディオコンポーネントそのものへ、人の精神への働きかけを求めることが間違いであり、重要な性能として求められるその部分は音源が持っているのだとの認識が欠けていることに気付きます。優れたオーディオコンポーネントとは、音源に入っている音楽の情報を正確に再現出来る能力を有するもののことです。

オーディオでの素晴らしい音楽体験は、先ず優れた音楽と優れた演奏の両方を兼ね備えた音源が必要不可欠で、オーディオコンポーネントはそれを正しく再現するものでなくてはなりません。そのどちらが欠けても成り立たないのがオーディオです。オーディオを通してより良いミュージックライフを手に入れる方法とは、とりもなおさず良い音源と良いオーディオコンポーネントを持つことです、正解は当たり前すぎる程当たり前のところにありこれがスタートラインです。

オーディオに手抜きは禁物です。

そんな観点から優秀なオーディオコンポーネントに必要な共通点をザンデンオーディオシステムを例に考えてみると、サイズやコスト等多くの制約があるなかで、サーキットデザインに始まりデバイスの選択・選別・実作等、説明可能な理由の裏付けのもと、オーディオ機器としての機能が正しく働くように作られていなければならないことが分かります。音源に入っているものの全てをを何も失わせず変化させず付け加えない、入力されたものを脚色せずにそのまま正しく出力する優れた製品を生み出す為の定石です。

余人には想像だにし得ないような驚愕の商品を次々創り出しているメーカーもありますが、概して評価の高い製品には卓抜したアイデアと抜かりない基本の実践が凝縮されています。

オーディオ誌上では頻繁に新しい機器が発表され、様々なレビューが日々更新され提供されています。それらの記事の行間や背景からお目当ての機器の本質を読み解くことはなかなか簡単ではありません。確かなオーディオコンポーネントを手にする為にはやはり直接自分の五感を使って見つけ出す以外に良い方法は無い様に思います。これはと思った製品を見つけた折には何をさておいても試聴することが肝心です。

オーディオアミーゴ京都は数あるオーディオ製品を峻別し必要とされるところに提供することを心がけています。その職としての目利きは一朝一夕に体得しうるものではありませんが、牛のように遅々とした歩みではありますが怠らず日々の精進を続けています。

2013/09/27