Stereo Sound No.188 から

Quad ESL 2912/同じ系列のスピーカーを愛用するものとしてとても好もしいことの一つに、今回のモデルチェンジを期にこれまで取り上げられる機会が少なかったクォード ESL の記事を目にする機会が増えたことです。

今私の手元にあるステレオサウンドの188号にも[スピーカー]&[アンプ]クラス別相性チェックテストと題した記事があり、その200万円クラスにコンベンショナルなダイナミックラジエーター型スピーカー3機種とともに Quad ESL 2912 が取り上げられていました。組み合わされるアンプも4組あり、トランジスタ2機種・真空管2機種、価格も240万円から400万円とオーディオ専門誌の常道から外れること無く”価格帯でのバランスを考慮したもの”が揃えられています。長年ESLを使い続けて来た者から見ても今回テストに選ばれた機器の選択は妥当なところと云えるでしょう、それぞれが高出力であるのに加え最終段にはアウトプットにトランスを持ったアンプにテスターが好印象を持った様子がその証左です。

この企画はいわゆる機器同士の相性テストと云うことなので、テスターの好みを反映した物になることは織り込み済みでしょうし、その方が継続して購読されている読者にも分かり易い記事になることは云うまでもないことです。はたして思った通りの成り行きでテスターの嗜好に沿った評価で一件落着、無事相性テストの終了となりました。記事としてはテスター各人がどこかしら不満を抱いている様子がうかがえる等、「試聴しっぱなしかいな」なんて今一つ詰め切れていない感が残る結末ではありましたが。

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詳しい内容は本誌を読んでいただくとして、ここから先は Quad ESL をメインスピーカーにしている Audio Amigo Kyoto の独り言です。

このテストには先にも書いたようにトランジスタと真空管それぞれ2組のアンプセットが使用されています、そしてそのうちの3組が出力部にトランスを持った機種です。繰り返しになりますが ESL を前提にして選んだとすれば出力も95Wから600Wとまずまずで、ここ迄は結構良い線を行ってます。

ここでちょっと一言。 Quad ESL は鳴らし難いスピーカーで結構アンプとの相性がシビアで、ベストカップルが見つからず結局 Quadブランドのアンプがベストなんじゃないかと云われていました。確かにそれで上手くいった初代 57 は別として 63 以降の ESL に Quad ブランドのアンプではベストマッチではありませんでした。当然現行のモデルも然りで、新製品に合わせて高出力化された Quad ブランドの真空管のアンプでもまだまだ出力(電力供給量)が足りず、ESL の真価を発揮させるには至ってはいません。

話を戻します、用意された試聴機のパフォーマンスが、テスター各氏が期待していた ESL スピーカーの持つポテンシャルにあと一歩追いつけなかった理由について考えてみました。

相性テストなので組み合わせるアンプは現在市販されているモデルの中からこのテストの趣旨に該当する価格帯から選択すると云う縛りがあるので仕方ないとも云えますが、選ばれたアンプにはこのスピーカーの魅力を引き出す大事なポイントが抜けていることに気付きます。

使用するパワーアンプの出力も重要なポイントでもあるので、ここで選ばれている4機種は合格圏内にありました。しかし ESL の真骨頂とも云うべきデリケートな音質の再現と云う点に関しては幾許かの問題を抱えています。その理由は使用されている出力素子が KT120 と云う傍熱5極管やトランジスタであると云うことです。今回のテストに供されたモデルのように、5極管を使用する場合でも3極管接続やウルトラリニア接続にすれば随分改善され3極管が使用出来ない時の次善の策にはなるのですが、音楽の再現に無くてはならないしなやかで伸びやかな音質の表出を求める場合、やはり直熱3極出力管を採用することが成功の鍵を握ると云えるでしょう。それともう一つ ESL は高域の再生時極端にインピーダンスが下がる性質があり、低インピーダンスへの耐性もかなり重要なポイントになります。

そうは云うものの現行で市販されている直熱3極管は少なく、その中でも高出力を望めるものは更に減り実用になる真空管の種類は限られています。そのような難しい条件の中に有りながら奇跡的に流通量も多い管種に845があり、この真空管を用いることで直熱3極管ハイパワーアンプの製作が可能になります。それ以外には現状を見渡しても市場性の無さからか高出力の直熱3極管パワーアンプそのものが少なく、特殊なものがたまに見つかる程度で選択肢はほとんど無いのが現状です。また運良く信頼に足る製作者に出会え製作を依頼出来たとしても、その費用は材料費も含めかなり高額にならざるを得ません。また必要な出力を取り出す上で動作上出力管には高電圧をかけることになり、製作上も使用上でも安全対策の厳重さが要求されます。いろんな意味で現在のオーディオ商社では扱うことが難しい代物と云うわけです。

新型の Quad ESL 2912 は1ペア230万円と云う価格が設定されています。その前身にあたる ESL 2905 を実際に長期にわたり使用している感想を云えば、価格はそのパフォーマンスに比してとてつもないバーゲンプライスだったと云うことです。ただしアンプに限りなく上質なものを使用すると云う条件が満たされた場合に於いてだけですが。

現在オーディオアミーゴ京都がリファレンスとして使用している ESL 2905 は ESL 2912 の前身のモデルになります、カタログ上に現れる諸元的には新型に劣っている様に見えますが、構造の基本構成に変更点はなくエレメントや回路上の数値以外はそのままです。

Qaud ESL はこれまで大量に流布された 57 や 63 の世評が一人歩きし扱い難いスピーカーとして認識されていますが、おそらくそうした話の元の大半は増幅されたうわさ話が未体験の人々の想像を更に膨らませおもしろ可笑しく語られた部分が多くを占めているように思います。

現実には当店開設時から使い続け今日迄故障も目立つ劣化も見られず、巷間なにかにつけて噂されている様な脆弱さを感じることは一切ありませんでした。また400Wと云う耐入力があり音楽鑑賞に必要な音量は何不自由なく普通にこなせるので、音量で聴き方を制限されるような思いをすることはありませんでした。

この ESL 2905 と同等のパフォーマンスを持ったスピーカーの価格は、例えば Magico Q3 をはじめとして相当高額になると思います。ただ鳴っていれば良しとするのではなく、 ESL の真価を引き出す為には高品質のアンプが必須であり、価格帯のバランスなどは一旦頭の中から消し去ることが必要です。

*(Mr.アーロン・ウォルフは自身の理想とするスピーカーとして、プレーナータイプの音質を維持した上で  十分なダイナミックレンジを確保する為に Magico を起こしたと聴き及んでいます。)

最後にオーディオアミーゴ京都に於ける Quad ESL 2905 の使用状況です。

パワーアンプには Zanden Model 9600 と云う真空管式モノブロックアンプを、開設当初は出力を60Wに設定して組み合わせていましたが、スピーカーの耐入力にはまだまだ余裕があったので時間とともに高出力化を図り現在では100Wで運用しています。パワーアンプを含め他のザンデンオーディオ製の高品質な機器と、的確にコントロールされたルームアコースティックにより ESL 本来の音楽表現の素晴らしさとともに、従来から ESL では諦めなければならないと云われていたリアルなダイナミックレンジの再現を可能にしています。

Qaud ESL は繊細さとハイパワーを併せ持ったアンプに出会うことによって初めてその本領を発揮してくれるハイパフォーマンス スピーカーシステムです、うわさ話に惑わされずご自身の耳でお確かめ下さい。

ただし耐久性についてはその機構上、ダイナミックラジエター型のスピーカーと同一線上には語れないようです。

2013/09/15