Insulater に寄せて

長年にわたりオーディオを嗜んで来られた方にとって、システムのセッティングにあたってはオーディオラックなりオーディオボードやインシュレーターは欠かせないものです。殊にスピーカーは純正非純正を問わずスピーカースタンドやインシュレーターを用いたセッティングが主流になっており、設置用のアクセサリー無しにそのまま直置きするなど論外でしょう。

その様な理由から現在ではすっかりオーディオ好きの間に定着した感のあるインシュレーター関連のアクセサリーですが、その原点は購入時のオーディオ機器にもとからついている「足」の見た目も含めての貧弱さを補う装飾的な意味合いであったり、スピーカーやスピーカースタンドの底についているスパイクで床が傷付くことを防ぐスパイク受けなど保護用途としての意味合いが強く、当初は Insulate(絶縁)機能を考慮して作られたものではありませんでした。

設置場所の保護や見た目の補完を目的に使われだしたにも拘らず、いざそれらを使用してみるとオーディオシステムに全く変更を加えていないにも拘らず、出てくるサウンドの Bifore → after で聴こえ方が異なっていることに気付く人々が出て来ました。そうこうするうちオーディオ好きの人々の間ではスパイク受けやスペーサーの素材や形状が異なるごとにサウンドが変化する事実の共有が広がり、そうした動きから音質改善のツールとしての有用性が囁かれ始めました。それが現在では数多の製品とそのバリエーションが作り出され、オーディオ機器本体の不要振動や外部振動の伝搬阻止や拡散云々等様々な謳い文句で百花繚乱、手軽で即効性のあるアクセサリーとして停まる所を知らない勢いでバリエーションを増やし続けている理由です。

現在単体で機器類の設置を可能にするオーディオボードの名称に分類されたもの以外、振動をどうにかする為のアクセサリーのことはインシュレーターの名の下に一括りにされています。それらに採用されている材質・形状・構造は様々で、金属・高分子・木質・鉱物とその複合体また固いもの柔らかいものと数えきれない程の種類があり、それぞれがその高性能を謳い互いに競い合って市場を賑わせています。

それら各種の製品はインシュレーターとは名乗っていますが、言葉通りの「インシュレーション」が実現出来ているものは極少数に過ぎません。「インシュレーション」言い換えれば「絶縁」ですが、その言葉通りの性能が達成されている一部のものを除き、大方の製品はそれぞれ固有の響きを有していて製作者の思う「良い音」に仕上げる為の個性を纏っています。そしてそれを使う側に立つ人々は、その製品の素材や構造に起因した特有の癖を利用しつつ、自らの求める「良い音=個性あるサウンド」を手に入れようと試みるのです。百人百様の所謂「良い音」を作る為のツールとして重宝されていて、端から見ているとインシュレーターをエフェクターの一種と捉えているようにも受け取れます。オーディオを音楽を楽しむ為ではなく、独自の音作りまた音を変化させることこそに真骨頂があると考える人達にとって、欠かすことの出来ない便利この上ない存在になっているようです。

他方そのような考えのもとで構成された個性的なサウンドを奏でるシステムの場合、音そのものではなくオーディオを通して音楽を聴たきたい、それも録音時を彷彿とさせる音楽の現場を聴きたいといった要求を満たそうとした場合、はたしてそこからもたらされる結果に「?」となることは想像するに難くありません。コンサートやライブにも立ち会わずに、オーディオシステムから出てくる音だけを金科玉条のように聴いているのでは気付くことも難しいでしょうけれど。

閑話休題

オーディオ専門誌の紙面にはかなりの頻度でインシュレーターの紹介記事が掲載されていて、その文中各製品の特徴特性の事細かな説明があり、対象となる機器やそれに対する使用方法等が掲載されています。まあ見方によっては市販の薬を使った対症療法のようにも思いますが、平たく云えば毒をもって毒を制すの例えのように上手く運べば結果オーライなのでしょう。ただその変化が面白くてついついやりすぎてしまい、個性の屋上屋となりはしまいかと老婆心が頭をもたげます。

また手練のオーディオ好きの手によってアクセサリーの類いを使用せずにセットアップされたシステムの場合、それ迄オーナーの丹誠によって紡ぎ出されていたサウンドが、新たに組み込まれたインシュレーターによって雨散霧消してしまう笑えない事態も想像されます。

この項の駄文からからもお察しいただけるとは思いますが、私はこれ迄インシュレーターの使用には後ろ向きでした、むしろそれら無しで自らが求めるサウンドが具現出来ていると考えていましたから。けれどもこのところ音楽を聴いている時に振動対策の最後の詰めが残されているかもしれないとの想いに駆られ、その想いを解消する為にはインシュレーターを使わないと先に進めなくなる様な場面に遭遇することが重なり、この際思い切って市販品の中からピックアップしたものを使ってみようかとも考え始めました。

『でも使えない、だって今あるサウンドが変るのはにどうしても絶えられない』の繰り返し、まるでリングワンダリングの様になってしまい仕方なく現状で足踏みする日々を過ごしています。

切なる願い。音を変えないインシュレーターがあって欲しい、音の質感と佇まいを損なわないインシュレーターが現れて欲しい。出来るなら更にサウンドクォリティーが弥増すインシュレーターに出会いたい。

 

2016/9/4