音羽 誕生
オーディオ機器のセッティングに金属製に限らずスパイク受けや高分子系の一般にインシュレーターと呼ばれているものを使用すると、結果の良否は別にして音は必ず変ってしまいます。当店はインストールにあたり原信号に含まれない音の混入等、不確定な要素を極力排除する為にインシュレーター等アクセサリーの使用を控えて参りました。けれども音そのものを直接生み出すスピーカーに限って云えばその振動エネルギーは他の機器に比べて桁違いに大きく、当店試聴室でもそれを支える為に可能な限り強度を持った床(コンクリート下地)に直接スパイクを刺すことにしていますが、まだ何処かに拙い所があるのか僅かながら気になる響きが見え隠れしています。スパイクによってスピーカーの振動は床へと逃がされている筈なのですが、それでもまだスピーカーの振る舞いが抑制されている感触が拭いきれないでいました。
しかしその何かをインシュレーター等のアクセサリーによって解決しようにも、前述したように既存の製品では固有の音が付加されることになり、副作用を被るリスクの大きさから実行出来ないでいました。店内でお聴きいただくサウンドは Zanden audio sistem のクォリティーを存分に発揮していて、このままでも十分満足していただける状況にあったと考えています。そのようなところに安直に市販のインシュレーターによる Something を加えてしまうと、現状維持さえままならない泥沼にはまり込んでしまい、むしろ余計に悩みが深まる状況に嵌ってしまうことが想像に難くありません。
だからといってまだ先に進めそうな予感がある中このまま宙ぶらりんで放り出す訳にもいかず、なんとか他に方法は無いかと無い知恵を絞ってみるものの荒唐無稽の空中浮遊にまでたどり着いてしまう堂々巡り。このまま他力本願を決め込んで惰眠をむさぼり暮らしていても、私の思い描く理想のものが他所から現れる可能性は極めて薄いと考えざるを得ませんでした。
そうやってただただ文句を垂れているだけでは埒があく筈も無く、そんなフラストレーションを解消する手段は自らがその空中浮遊状態を体現する新機軸をものにするしかないと肚をくくって、私が必要とするインシュレーターの試作に向けて空っぽの状態から構想を練り始めました。
頭の中紙の上に浮かんでは消え浮かんでは消えするアイデア、あわよくば途中試作を省いて図面上だけで完成品として仕上げてしまいたいと虫のいいことを目論みながら設計を続けました。何しろニッチなオーディオショップですから、割ける資金に余裕ありません。途中かなりの紆余曲折がありましたが、何とか試作一発で成功させようとほぼ1年がかりで最終図面を書き上げたのが1年半前のこと。工場を急かして待望の試作品が出来上がったのがその1ヶ月後、早速試聴を開始しました。
試聴を開始する迄は当初の狙い通りの効果が出てくれるのか気を揉みましたが、案ずるより産むが易しと云うか奇跡が起こったと思えるくらい考えていた以上の好結果を披露してくれました、ひとまず安堵。
今思い返してみても「考え甘いよ」と云われる様な無茶な計画と行程でしたが、「音を変えずに音を良くする」この一見矛盾に満ちた積年の夢が目の前に現れました。「音羽」と命名し直ぐに製品化することを決断しましたとも。
販売に向けては商品性や機能の完成度を検証する必要もあり、各数値に小変更を加えた最終テストモデルを必要数製作し長期の試用を開始しました。その結果は完成直後初めて試聴したときの印象は変らずに、音楽の表情がスポイルされる部分やサウンドに固有の癖が付加される副作用もなくもう太鼓判押しまくりです。このサウンドクォリティーの昇華具合は想定を大きく超えるもので嬉しくてたまりません。
その効果は初めての経験することでもあり、レビュー等で良く使用される既存の言葉では説明が難しいと云うのが正直な感想です。実際に聴いた感想としては音色の変化が無いこともあり、オーディオ誌上でのテストリポートにあるような「激変」等と云う安直な言い回しでは表現しきれない質的向上が見られました。全試聴期間を通して確信出来たことは、先ず第一に音質に変化は認められずその上でサウンドクォリティーは上がっている、少し不思議なこれ迄にも聞き覚えの無い現れ方なので、ボキャブラリーの貧しい私ではその表現方法が上手い具合には見つかりません。
言葉にするのは難しいのですが、強いて例えるとあたかも空気の密度が増したかのように静寂感に深みが増した、視覚に置き換えると陰影のグラデーションがきめ細かくなったと言えると思います。それに加えて音がスピーカーに残らず且つ通りも良くなり、音場と音像の再現がバランス良く両立している。また際だつのがプレゼンスの良さで、再生音量の大小を問わず低音楽器の音が明瞭且つ混濁なく聴こえます。その効果は大きくとても聴き易く全ての音があるべきところに展開する(音場が立体感に溢れている)実存感とでも云えば良いのか。ほんとに新鮮です。
そしてこの8月無事実用新案登録となりました。
* 既にご予約をいただいていた何人かのお客様のもとには納品を済ませました、使用を開始されて直ぐに Must item のお言葉を頂いています。
音羽は音楽生活の充実を求める皆様を更なる深淵へと誘う、とっておきの Must-have item になると確信しています。
2016/9/4