いいものみーつけた
久々に面白そうなターンテーブルを見つけたのでその顛末をお話しようとと思います、と云っても希少モデルとかではないので悪しからず。
当店のアナログレコードのプレーバックシステムは、ステレオ用とモノーラル用それぞれ2台のターンテーブルシステムに振り分けられています。
それぞれのレコードプレーヤーシステムに使われているフォノモーターは、 テクニクス SP10 と 松下通信工業 FR-953 の2台です。それら2機種には仕様に違いはありますが、基本的な構造を一にする 1969 年発売のテクニクスの 20 極 60 スロット DC サーボモーターが使用されています。因みに両機は第一第二世代のものであり、第三世代の SP10 Mk2 で採用されるクォーツロックによる回転制御が搭載される前の製品です。
ダイレクトドライブターンテーブル黎明期の 1970 年当時は、まだ電子回路に頼った速度制御技術が確立されていないこともあり、回転精度を上げる為には機械的・機構的に詰めて行くのが常道だったのでしょう。ダイレクトドライブプレーヤーの発売ではソニーに後れを取ったテクニクスですが、それを払拭するかの様な民生用としてこれ程手の込んだモーターを世に出したことに驚きを覚えずにいられません。
SP10 発売以降は高級機への道が開けたからでしょうか、テクニクス以外のブランドもトップモデルにはこれと同じようなモーターが続々と採用されることになります。
当時テクニクス SP10 と同じ 20 極 60 スロットのモーターを採用していたモデルは、ザッと挙げるだけでも SP10 の OEM ながらラックス PD121 ・ヤマハ YP-1000 YP-1000 II・マイクロ DD10 、そして同じ 20 極 60 スロットであるもののテクニクス製ではないと思われる2機種、マグネフロートで名を馳せたティアック TN-400 とビクター JL-T77 の2機種です。
ティアック TN-400 とビクター JL-T77 はマグネフロートの有無という違いはありますが出自を同じくする DC モーターで、性能的にも SP10 とほぼ同類と見做すことが出来るものでした。
ダイレクトドライブターンテーブルは、他にもデンオン・ソニー・ケンウッド等ほぼ全てのオーディオブランドから競うように発売されていました。
そしてその後オーディオブームが最高潮に達した頃、各ブランドからレコードを回すだけにここまでやるかと云うような、産業機械並みのモーターでトップクラスのカタログスペックを持った、ブランドの技術を誇示するためにだけ企画されたと思しき超弩級ダイレクトドライブターンテーブルが発売されたりもしました。それらは現在もマニアと呼ばれる人たちのお宝アイテムとして生存していて、雑誌の紙面で禍々しい雰囲気を湛えて異彩を放っています。
閑話休題
随分前置きが長くなりました。テクニクス SP10 より少し時代は下りますが、今回は東芝のオーディオブランドである AUREX が手がけた光電型サーボコントロールのオーレックスの SR-510 についてお話ししていこうと思います。
このオーレックス SR-510 の下位グレードに SR-410 がありますが、モーター本体は同じものが使用されています。また OEM となるローディー PS-55 はモーターは同じなのですが、サーボの方式が SR-510 の光電型ではなく当時やっと実用化されたクォーツロックが採用されていました。
まず何故 今頃になって SR-510 なのかということですが、ことの発端はインターネットの書き込みをウロウロしていた時に発端があります。
オーバーホールの甲斐がある様な綺麗な外装のSP10 が少なくなり、またそのオーバーホールの作業待ちにも時間がかかるようになってきたので、他に何か同じように使えるものはないだろうかと D・D モーターの修理の記事の近辺を検索している中で、プラッター下にあるモーターの保護カバー様のプレートが外された画像に目が留まりました。
そこにはモーター上部のスピンドル部分に取り付けられた縞模様の円板が映し出されているのですが、位置的にストロボ用の縞模様でもなさそうだし、他に用途があるとすればサーボコントロールに関係するものぐらいしか思い当たりませんでしたが、検索してみると光電型サーボのセンシング機構であることが判明しました。
光を使ってるって? FG サーボじゃないって?・・・・・・・変わってるな〜面白い!
これまであまり気に留めていなかったので素性もよく知らずにいたオーレックス製、しかも光電型サーボでスピードをコントロールする交流モーターだったこともここで初めて知りました。
こりゃ面白いものを見つけたなと軽い気持ちで記事を漁りだした所、手近なウェブサイトには以下のようなメーカーの解説が載っていました。
『この速度制御方式はターンテーブルと同時に回転する縞模様のスリット板が設けられており、このスリット板を投光部と受光部で挟んだ構造を採用しています。そしてスリットの回転によって起こる光の断続を受光部の感光素子CdSが検知してパルスを検出しています。このパルスを増幅し、マルチバイブレーターで波形を整えたあと、積分して直流電圧に変えられます。この電圧と基準になる電圧を比較し、差電圧を増幅してスイッチング回路に送り、モーターの駆動電圧をコントロールしています。
光は特性として応答速度が速くて正確なため、優れた速度制御方式を実現しています。
駆動モーターにはトルクむらが少ないエディカレントACサーボモーターを採用しています。』
デンキに無知な私には?なところ満載ですが、デザインも含めてターンテーブルそのものに興味をそそられていたのでとりあえず現物入手に走ります。
手っ取り早く手にするには何と言っても某巨大オークション、早速検索にヒットしました。でもブツは 45 年も経過したベテラン、使うにしてもオーバーホール前提なので価格は最底辺で狙います。
見事2台を手中に収めることに成功しました。
手元に届いたブツを手早く開梱、そしてレコードプレーヤーシステムのまま送られてきたので不要な部分を取り除きターンテーブル単体を取り出しました。その状態で電源に繋ぎ試運転すると2台共回転はしたのですが、1台はオーバーホール必須の状態もう一台は電子部品が交換されているようで当面の運用は可能との判断を下しました。首尾は上々です。
ただその2台、同じシルバーなのですがマットとクリアの異なる仕上げになっていました、それが発売時期によるものなのか不明なところが少しばかり気になります。
無負荷の状態で回した印象は、 AC モーターらしくスムーズでトルクもことさらに強力というほどではないのですが、半回転もしないで定速になり実用上何も不都合もないように思いました。このことは比較的軽量なプラッターが良い方に作用しているのでしょう、音質に関してもこの軽さは貢献してくると思います。これは私個人の好みですが、重過ぎるプラッターの音が苦手です。
また電源が入っていない状態でプラッターを手で回してみると全く抵抗がなくスムーズそのものです、テクニクス SP10 にある 20 極の強力なマグネットによる停止直前プラッターが少し逆戻りするあの抵抗感がないのです。まあ AC モーターだから当然なんでしょうが。
これからターンテーブルベースを誂えて、このまま暫くは使えそうだと判断した方の個体を使ってボチボチ試していこうかと思っています。
果たして「いいものみーつけた」になるのか、この先何か進展や変化があればその都度お話しようと思います、ひとまず今日のところはここら辺まで。
2019/7/16