良い音って?

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オーディオの話の中で一番多く耳にするのが『良い音』と云う言葉ですね。楽器であれば音の良し悪しがあって当然ですが、ことオーディオでの良い音とはどのような音なのでしょう。聴く人の好みにあった音が最も近そうですが、その基準はあるの?決まり事はあるの?。ワインのパーカーポイントみたいな指標になるものも無いし、色々な人がそれぞれ違った物差しで話すからどうにもよく分からなくて。つまり良い音とはどのような音を指すのか、また悪い音と良い音との違いは何なのかその基準が判然としないまま、それぞれの好みを表す個人的な感想を極大雑把に表す言葉として使われているようです。

例えばショップでは『どうです良い音してるでしょ』なんてセールストークとして、マニアックは『なかなか良い音だな』と自身のスキルを見せる為、またマガジンの目次には『良い音に出会う方法』等紙面をを埋める為の都合の良い言葉として使われいるのではないのでしょうか。

はたして良い音の正体とは何なのでしょう。

私のイメージするオーディオとは『聴感を頼りにして音楽の記憶を蘇らせる遊び』であり、そう考えると自ずとその答えに辿り着くはずです。即ちオーディオによって音楽を追体験することに重心があり,機械はその手段であり主役ではありません。

音楽を聴く為の手段としてオーディオを始めたにも拘らず、裏腹にも音楽の方が手段になったりするのです。この世界に足を踏み入れてしまった者にとってオーディオコンポーネントは魔法の機械で、それに手を出さずにはいられない『良い音がしそうな』機器類ばかり、それらが「おいでおいで」をしながら我々の行く手に待ち構えているのです。

当初の目的の『ミュージックライフの充実』の手段としてのオーディオコンポーネントから、どう間違えたか『音』ありきで『オーディオコンポーネントの充実』こそがオーディオの王道である、なんておぞましい世界にのめり込んでしまえば後は一気呵成、楽しい『オーディオ地獄』の始まりです。此処迄来てしまえば本当はあるかどうかも疑わしい、『良い音』の一句で人生のやり取りをする程の酔狂を平気でしてしまうのです。

冗談はこれくらいにして話を本題に戻しましょう。私も今迄散々『良い音』の話を聞いて来ましたし使っても来ました、しかしオーディオに求めるものが『聴感を頼りにして音楽の記憶を蘇らせる遊び』その一点に落ち着いた時、その『良い音』の呪縛から解放されたのです。

くどいようですが私にとってオーディオとは『聴感を頼りにして音楽の記憶を蘇らせる遊び』です。音楽は楽器の音や人の声で創られています、そこで使用される楽器も様々で心地良い音からそうでもない音、良い声の歌手から個性的な声の歌手まで限りなく多様です。それらを出来る限りそのままに再現するのが私のオーディオに於ける命題です。私がオーディオに求めていた『良い音』とは、ありのままに再現され電気的に増幅されたことを感じさせない『普通の音』なのです。

日本のオーディオの本流を司るマガジンやショップが取り上げる製品の多くは、『格別な音』がするオーディオコンポーネント、即ち聴く者に鮮烈な印象を与えるものが主になっています。そのことについてはその業界の有効な広告媒体としての存在が自身の存続の可否を握っているのですから、それに寄り添うのが自然な流れでしょう。オーディオショップもビジネスを考えればそれに乗るのは当然の帰結です、また乗らなければ商売としての大きな成功は見込めません。

日本のオーディオマニアと呼ばれる人達の多くは、オーディオコンポーネントによって『良い音』に変化させることや自分好みの音に調えることを日々考えています。自分だけが気に入った音を獲得する為にオーディオコンポーネントをエフェクターとして使い、その為にCDやレコードを聴いているなんて方も居るやも知れません。試聴会の会場で催されるデモンストレーションに於ける強烈で個性的な音は、商品としては先ずアイキャッチ、オーディオに於いてはイヤーキャッチになるでしょうか、でもそれが結構効率良く購買意欲を増大させるキーポイントになるからに他なりません。

そうした状況の中で展開されている素晴らしい音がする機器の大半は、さきに述べたように販売戦略上重要な『良い音』とされる格別な音特有の『感覚を刺激してくれる音』を持っており、私が求める録られた時のままを彷彿とさせる『普通の音』での音楽を再生するのには向かないのです。そんな名機は沢山出回っているのですが、私の欲しい普通の音を聴かせてくれる機器を見つけ出すのに想像以上に長い時間がかかってしまいました。

現在のオーディオアミーゴ京都には私の思う『普通の音』で聴かせてくれる、音楽を聴く為のオーディオがセットアップされています。音楽を何時も傍らに置く為だけに。

2013/07/01